イスラエルには世界中のさまざまな国から人が集まっており、均質性の高い日本とは対照的な国です。ポーランド系3世のミハル・フィッシュベインさんは、イスラエル国内で「ポーランド人のミハル」というお店を開いています。
彼女は、生粋のポーランド人のおばあさんの口癖の言葉をヘブライ語や英語であしらった小物を作り、自分の店で売っています。人気なのは、冷蔵庫に貼るマグネットやエプロンなどです。インタビューを始めようとすると、彼女の方から逆に聞かれました。
「ねえ、あなたポーランド人について、どんな印象持ってる?」
クラウドファンディングで45万円の創業資金を調達
知人を思いめぐらすと、「教育熱心な母親」という姿がまず浮かんできました。一世代前までは、ポーランド人の母親は「娘を教師か医者にさせる」「いい成績をとることは大事と強調する」「キチンとしている」というイメージがあります。
「そうなのよ。感情を表に出してハグするとかじゃなくて、特別おいしい料理でもてなすとか子どもの仕事の成功を褒めるとか、そういうことで表現するの」
ミハルさんは起業する前、ステマツキという国内最大の本屋チェーンに8年間勤めていました。本が好きでそこに働いていたのですが、少しずつ本のことを分からない店員が増え、店頭におもちゃなど本以外のものが並ぶようになりました。
そんな様子を見て、彼女は自分でおばあさんの言葉をアレンジした作品を作り出しました。お客さんにも好評で、売り上げが少しずつ増えるのをみて、彼女は本屋の仕事を少しずつ減らしていきました。
この作品を売って週3日くらいの仕事をするためには、どうしたらいいだろう。彼女は資金を募るために、「ヘッドスタート」というイスラエル版のKickstarterを紹介されました。クラウドファンディングによる資金調達です。
彼女は本当に資金が集まるのか半信半疑でしたが、6000シェケル(約18万円)の目標額に対し、3か月後には1万5000シェケル(約45万円)も集まっていました。娘に勧められてフェイスブックにアカウントを作り、毎日1作品ずつ投稿すると、2万を超える「いいね!」が押されました。
商品を通じて「自然とコミュニケーションが生まれる」
それから2年。現在は国内14か所の店頭に商品を置き、隔週で町の行事などに出店しています。従業員は27歳のダナひとり。彼女がこのビジネスの大黒柱で、いつどこでどんな行事があるかを調べてくるのもダナです。
出店するときには、彼女の娘も参加し、会計関係は弁護士の夫が担当しています。ビジネスでの楽しみは、どんなところにあるのでしょうか?
「出店していると、いろんな人が来ます。子どもたちも来て『あ、これうちのお母さんが言うこととそっくり』とか、『ぼくのお母さん、こんなこと言わないなあ』なんて言われて『あら、ラッキーね』と言い返したり。自然とコミュニケーションが生まれるの。ポーランド気質を分かる人のグループというのがあるのよ。年齢、出身にかかわらずにね」
どんな言葉の商品が人気ですか?
「そうね、例えばこんな言葉を書いているわ。『朝起きたらどこも痛まないの、私死んだのかと思ったわ!』『寝てるですって?! 頭を枕の上に置いてるだけよ!』『一日中台所で料理して、これが私が受けるお礼?!』『だから言ったじゃない、って言いたくはないけど』『とにかく言うことを聞いて。あなたが親になったら分かるわ』…。長い人生経験を積んできた人が、つい口にしたくなる小言が多いかしら」
子育てとの両立に、苦労しませんでしたか?
「2人の子どもたちが学校に入るまでは、自宅で子供服などを作って売ったりしていたから、特に問題はなかったわね」
どこか「日本の昭和のお母さん」に似ているかも
ビジネスで苦労することはなんでしょうか?
「うちはとても小さなビジネスだから、主に自分との戦いね。お金のことはまるっきりダメだから、夫に任せている。うまくは言えないけれど、自分の中にモデルというのがあって、それとのギャップを埋めることかしら」
モデルというのは、彼女の中にいるストイックな「ポーランドのおばあさん」なのかもしれません。彼女はもっと人を雇いたいけれど「ダナのような人が見つからない」と嘆きます。
「若い世代は、仕事に対する誇りがなくて」というのは、以前インタビューしたヴェレッドさんとちょっと似ています。
ポーランド人のおばあさまが見たら何とおっしゃったと思いますか、と聞くと「うーん、それは分からないわ。何と言ったかしらねえ」と懐かしそうにしていました。私には、ポーランド人気質って、日本の昭和のお母さんと似ているんじゃないかと、ふと思わされました。(文:夢野響子)
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