松坂屋、伊勢丹など有名百貨店のデパ地下に29店舗展開し、果物や野菜をふんだんに使ったジャムやドレッシングなどを扱うセゾンファクトリー。2015年2月19日放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、「本当においしいものは高くても売れる」という齋藤峰彰社長の経営秘話を紹介した。
佐渡の「黒いちじくジャム」は330グラムで3240円、徳之島産の「グアバジュース」は350グラムで1620円など高額だが、飛ぶように売れており、リピート客は「高くても納得できる。ただただ美味しいと言える商品ばかり」と満足そうだ。
素材の旬は「はしり、さかり、なごり」で使い分け
山形県高畠町
に本社を置くセゾンファクトリーの特徴は、何といっても旬の素材だ。齋藤氏によると、旬にも時期によって早い方から「はしり、さかり、なごり」の3つがあるという。はしりはドレッシング、なごりはジャムやジュースに向いている。さらに生の新鮮さだけでなく、加工の妙というものもある。
「生には生のおいしさがあるが、生以上のおいしさもジャムで作ることができる。『新しいおいしさ』を人の手で作っていくのが加工食品」
収穫時期も重要で、雪が積もってから収穫したリンゴや大根は、その実に甘さをギュッと蓄える。豪雪のなか、十数名の社員たちが自社農場へ向かい収穫した大根は、まるで梨のような甘さだ。
ただ、こうしたノウハウは最初からあったわけではない。齋藤氏は1950年、小さな醤油蔵の長男として生まれる。家を継ぐため大学は東京農大の醸造学科へ進んだが、知人の連帯保証人になっていた父が借金を背負い、実家は廃業に追い込まれた。
なにか事業を始めたいと考えたとき、大学時代に長野で食べたぶどうジャムの美味しさを思い出し、地元山形のおいしい素材でジャムを造ろうと思い立った。借金のかたにすべて取られた醤油蔵で、唯一残ったガスコンロと一斗缶でジャムづくりを始めた。
破格の値付けでも「安いのかも」というお客
試行錯誤を繰り返す中で、母親は「おいしいものを作りなさい。おいしいものは体にいいのよ。おいしいものは高くても買うから」と言った。その言葉が、今につながっているという。
3年たったある日、転機が訪れる。隣の果樹園に出荷のタイミングを逃したブドウを分けてもらった。熟しすぎのブドウを炊き出すと、驚くような素晴らしい香りが立ちのぼった。ジャムづくりには「なごり」の果物が最適だと気づいた瞬間だった。
その後、1989年にセゾンファクトリーを設立し、実の弟と共に運営した。母親も会社でラベル貼りをするなど積極的に働いてくれ、ご意見番のような存在でもあったという。
いまや全国から「うちの生産物で商品を」という売り込みが絶えない。番組では、JA栃木が形は悪いが味はいいという「とちおとめ」をジャムにしてほしいと相談があったが、齋藤社長は形に難色を示し、「素材がすべてだから」と断った。
その代わり、新開発の超高級イチゴ「スカイベリー」でジャムを作ることを提案。惜しみなく手間暇かけて作り上げたジャムは桐の箱に納められ、265グラムでなんと4860円。それでも購入した客は、こう笑っていた。
「仕方ないという感じ。このイチゴが入っているなら、もしかして安いのかも」
「あなたが買いたい商品を作れ」
社長がスタッフにいつも言っているのは、「あなたが買いたい商品でなければ売れないよ。3000円も出せる?」という言葉で、「人(スタッフ)がどれだけ意識をもって頑張るか」が重要だと齋藤氏は力強く語る。
入社16年目でスイーツ責任者の佐藤和彦さんは、山形産の絶品卵を使った「マスカルポーネクリームチーズケーキのプリン」開発のために、全て手作業で奮闘していた。社長は佐藤さんの肩を叩いて、「言ってみれば佐藤和彦の作品ちゅうことだろ」と笑顔で檄を飛ばす。
村上龍は、セゾンファクトリーのドレッシングで毎日野菜を食べるようになったそうだ。商品も店舗デザインも、高級感にあふれ洗練されている。しかし村上は編集後記で「セゾンファクトリーは、泥臭く、地道な努力の果てに生まれた」と語っている。
その言葉通り、佐藤さんはいかにも真面目で誠実そうな人だった。高くても売れる商品は、このような人たちの努力でなければできないのだろうと思わされた。(ライター:okei)
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