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統合失調症で入院44年、親が死んで「見知らぬ甥」が保護者にーー精神障害者の苦境

2015年02月19日 19:41  弁護士ドットコム

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統合失調症やうつ病などの「精神障害」を抱える人は、どのような生きづらさを抱えているのか。そのことを理解してもらうための講演会「精神障がい者の生活のしづらさ~その実際と理由を探る~」(東京都主催)が2月18日、東京都庁で開かれた。精神科医の井藤佳恵さんと、生活困窮者の自立を支援するNPO法人もやいの稲葉剛理事長(写真)が、支援の重要性を訴えた。


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●「甥っ子に迷惑かけてんだ」と語る精神障害者


高齢化社会を迎え、精神障害を抱える人の保護が大きな問題になっている。そのことについて、井藤さんは、44年にも及ぶ長期入院生活の末、昨年亡くなった、ある統合失調症患者のケースを紹介しながら説明した。



この患者は、ずっと入院生活を送っている間に、親もきょうだいも亡くなってしまった。そのため、一度も会ったことのない甥が「保護者」になったという。そして、10年ほど前、この患者にがんが見つかった。



「がんはまだ早期で、手術できる状態でしたが、本人の意思ははっきりせず、『手術しても良い』と言う日もあれば、『電波でやられているから、手術してもしかたがない』と言う日もありました。



電波の話は、数十年前から続く妄想です。ときどき彼が言う『甥っ子に迷惑かけてんだ』という言葉のほうが、手術を拒否する本当の理由のように思えました」



この事例のように、長い入院の間に、親やきょうだいが亡くなり、甥や姪が「書類上の保護者」になるケースは少なくないという。井藤さんは、この甥に連絡を取ったときのやり取りを紹介しながら、患者だけでなく保護者も苦悩を抱えている、と語った。



「(連絡を取った)当時はまだ携帯電話が普及しておらず、病院からの電話は、自宅か職場の固定電話につながる時代でした。甥は『妻には話せない。病院から家に連絡しないでほしい。誰だって、自分の家庭を守ることのほうが大事ではないんですか?』と、苦しんでいました」



また、井藤さんは、保護者である親が生きている場合でも、その親が認知症になり、精神障害者である子が「親の介護」を迫られることもあると述べた。十分な介護ができず虐待に走ったり、介護の負担から精神疾患が悪化したりするケースもあるそうだ。



「精神障害を持つ人やその親の高齢化に対して、本人や家族だけで直面し解決することは、とても難しい。だからこそ、信頼できる支援者と出会い、高齢化という課題に備えてほしい」



●ホームレスの約半数が「精神疾患」


一方、NPO法人もやい理事長の稲葉剛さんは、2008~2009年に池袋のホームレスを対象に実施した調査で、精神疾患を有する人が約4~6割、知的障害者が約3割いたことを紹介した。



東京都内には、ホームレスなどを受け入れる施設が数多くあるが、精神疾患を抱えている人の中には、集団生活の施設になじめず、路上に戻ってしまう人も多いという。



そこで、稲葉さんは、施設ではなく、アパートに入ってもらい、医師などがサポートする「ハウジングファースト」の視点でサポートすることの重要性を訴えた。欧米では広く知られた考え方だという。



稲葉さんは「私たちは、日本版のハウジングファーストを作りたい。まずは、民間レベルで、空き家を活用した住宅支援を進めて、行政にもモデルを示したい」と話していた。


(弁護士ドットコムニュース)