米国のコーヒーチェーン「ブルーボトルコーヒー」が2月6日、東京・江東区の清澄白河で日本1号店を開いたことは、すでに耳にした人も多いだろう。オープンの話題はネットで広まり、初日にはコーヒー1杯を求めて2時間半の行列もできたという。
このコーヒーチェーンは、なんと日本の「純喫茶」に影響を受けたという。2015年2月17日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)は、ブルーボトルコーヒーが日本で受けた影響と、今後もたらす影響について取り上げた。
「ゆったりとした時間を過ごす」日本流に感銘受ける
ブルーボトルコーヒーの最大の特徴は、多くのコーヒーチェーンがマシンを使う中、人の手で一杯ずつドリップしていくことだ。有機栽培した豆を使用し、店に焙煎機を備えて48時間以内に焙煎したものしか使わない。
創業者のジェームズ・フリーマンさん(49歳)は、「お客さんが興奮するくらいおいしいコーヒーに仕上げたい」と語る。元はクラリネット奏者だったが、やがて自家焙煎したコーヒー豆を青空市場で売るようになる。
転機となったのは、2007年に日本を訪れたこと。1日で喫茶店を9軒回ったそうだ。
「日本の喫茶店では、ゆっくりとお湯を注いで待つ。ゆったりとした時間を過ごすことができます。そのブロセスややり方に、私はとても影響を受けました」
帰国したフリーマンさんは、米国では珍しかった手作業で淹れたコーヒーを販売。その味が評判を呼び、テントから始まった事業はいまや西海岸とニューヨークで16店舗を開くまでに急成長した。海外初進出にフリーマンさんが選んだのは、日本だ。
「日本はサービスやおもてなしのレベルが、かなり高い。私たちもそのレベルで戦えるようになりたい。それを米国の店舗に還元していく」
1号店の地に清澄白河を選んだのは、「銀座などよりせかせかしていない、リラックスできる穏やかな場所」という理由で、2号店は青山にできる予定だ。
個人経営の飲食店をねらう「ネスカフェ ミラノ」
一方で、本場日本の純喫茶は大手チェーンに押され、30年前の半分以下に減っている。その市場をねらうのが世界150以上の国で事業を展開するネスレだ。家庭用コーヒーの国内シェアは約4割だが、その売上が頭打ちとなり新たなビジネスの開拓を迫られていた。
切り札として開発されたコーヒーマシーン「ネスカフェ ミラノ」は、コーヒーやエスプレッソなど14種類の飲み物が誰でもボタンひとつで作れる。全国の個人経営の喫茶店に置かせてもらい、コーヒーやココア、ミルクの粉末の販売拡大を図る。ネスレ日本・事業開発マネージャーの國寶友幸さん(38歳)はこう語る。
「我々が喫茶店の皆さまにサポートしていくことによって、すごく大きなチャンスがあるんじゃないかと」
しかし営業活動は難航し、独自のリストにある喫茶店を当たると廃業していることも。営業を始めて2年で、置かせてもらえたのは5軒のみだ。古くからコーヒーにこだわりがある純喫茶では、話も聞いてもらえない。
ところがマシンを導入した店では、店主の奥さんがとても喜んでいた。メニューも増え、飲み物の注文は1日30杯から50杯に増えた。
「ランチ時は大変便利。うちは夫婦ふたりで飲み物も食べ物も出すから」
1階でパンや菓子を売り2階が喫茶店という店では、ネスレが改装費を出してパン売り場をイートインコーナーにリニューアル。2階の喫茶室に誘導するアイデアを次々と打ち出していた。このマシンは月1万5000円のレンタルで、設置やメンテナンスは無料。ネスレの気合いの入り方を感じさせた。
純喫茶はさらに追い込まれてしまうのか?
戦後次々と純喫茶が開店し、1980年に格安コーヒーチェーン店が登場。96年のスターバックスの上陸はカフェに女性客を呼び込むことにつながった。最近ではコンビニで手軽に買える、淹れ立てのコーヒーが人気となっている。
ネスレ日本の新ビジネスは、昔ながらの純喫茶を助けるというよりは、個人経営の飲食業に需要があるように見えた。おいしいコーヒーを飲める店が増えるのは歓迎したいが、ブルーボトルコーヒーやネスレの成功が、純喫茶をさらに追い込んでいくのではないかという懸念を感じて複雑な思いがした。(ライター:okei)
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