2015年02月19日 11:41 弁護士ドットコム
「トイレはできるだけ我慢して!」。職場の先輩社員からそう言われて困っているという女性の相談が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられた。相談者は、育休明けに異動した支店で、先輩の女性社員から、さまざまないじめを受けているのだという。
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一番つらいのが、トイレに行かせてもらえないことだ。相談者の主な仕事はパソコンでの入力作業だが、作業中はトイレに行くことを我慢するよう先輩社員から言われているという。午前と午後に1回ずつしか、トイレに行くことができなくなった。
相談者は、いくら勤務中とはいえ、生理現象を我慢しろというのはおかしいのではないか、と考えている。もし膀胱炎などになった場合、会社やこの先輩社員に対して、治療費や慰謝料を請求できないだろうか。労働問題にくわしい大山弘通弁護士に聞いた。
「膀胱炎の治療費や慰謝料は、いじめの加害者である先輩社員個人や会社に請求できるでしょう」
大山弁護士はこう結論を述べる。なぜ、そう言えるのか。
「いじめは不法行為ですから、いじめによって生じた損害は、加害者が当然、賠償すべきです。また、会社にも、従業員が誰かに加えた損害を賠償する責任と、職場環境に配慮する義務がありますので、これに反したとして、会社に対しても賠償を請求できる可能性があります」
このように大山弁護士は説明する。
「先輩社員としては、『トイレに行くなと言ったわけではない』とか、『膀胱炎になるほどトイレを我慢したのは、相談者の自己管理ができていないためだ』と反論するかもしれません。
しかし、相談者がこれまで、先輩社員からさまざまないじめを受けてきたことを考慮すれば、『トイレをできるだけ我慢して』という言葉が単なる業務指示などではなく、相談者に苦痛を与えることを意図してなされた可能性が高いです。
このように考えると、先輩社員の行為はいじめであり、不法行為といえるでしょう」
では、先輩社員に対しては、膀胱炎の治療費などを全額請求できるのだろうか。
「残念ながら、全額請求できるかは微妙です。
相談者としても、トイレに行くことが不可能というわけではなかったでしょう。したがって、膀胱炎になったとしても、相談者自身にもいくらかの過失があり得るため、全額請求というわけにはいかないと思います。
また裁判上は、そもそもいじめが存在したかどうかが、最もシビアに争われます。職場のいじめというのは、客観的な証拠に乏しく、言った言わないの水掛け論となりがちです。
積み重なれば大きくても、一つ一つの出来事は些細なことだったりしますから、こまめに記録を付けておき、自分の身は自分で守ることが大事です」
大山弁護士はこのように語っていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大山 弘通(おおやま・ひろみつ)弁護士
労働者側の労働事件を特に重点的に取り扱っている。労働組合を通じての依頼も数多く、もちろん個人からの相談も多い。労働事件は、早期の処理が大事であり、早い段階からの相談が特に望まれる。大阪労働者弁護団に所属。
事務所名:大山・中島法律事務所
事務所URL:http://on-law.jp/