塩崎恭久厚生労働相は2月17日、労働政策審議会に「労働基準法等の一部を改正する法律案要綱」を提出した。13日に審議会が公表した「今後の労働時間法制等の在り方について」を踏まえた内容で、改正労基法案の方向性を示すものだ。
注目の「高度プロフェッショナル制度」については、労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定を適用しない「対象業務」として、次のように表現している。
「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせる業務」
法改正で「早く帰れる人」を増やすべき
要するに「労働時間」と「成果」との関連性が高くない仕事に関しては、現在の「管理監督者」と同様に労働基準法の一部の規定を適用しないということだ。なぜこれを「高度プロフェッショナル制度」と呼ぶのだろうか。
まず確認していておきたいのは、「労働時間」と「成果」との関連性が高くない業務とはどのようなものか、ということだ。具体的な業務名はともかく、労働時間と成果の関係には図のようなパターンがありうる。
このうち、Aの「短時間労働・小成果」と、Dの「長時間労働・大成果」は、労働時間と成果の関係が高いと認められる。例えば工場での組み立て業務は、10分あたり6個組み立てられる人は、単純計算で10時間かければ360個組み立てられることになる。
したがって今回の労基法改正で対象としているのは、これに当てはまらないBやCの業務ということになる。特にCの「短時間労働・大成果」の可能性がある業務については、1分単位での労働時間の管理を行う必要性は確かに薄い。
それよりも成果さえ上げられれば、その日の状況によって短時間勤務で帰れるようにした方が合理的だ。もしもこのような人たちを時給制の枠組みに押し込めるならば、成果に必要な時間以外はダラダラと席に縛り付けられることになる。
求められる成果を短い時間で上げられる人が必ず現れるとは限らないが、少なくともそういう人たちを数多く生み出すことで、人の創造性をさらに高める方向に変化しなければ「高度プロフェッショナル制度」の名が泣くというものだろう。
成果が達成できなければ賞与カットも
その一方で、Cの業務に携わる人が成果を上げられない場合はどうなるのか。おそらくAやDのように成果を1日単位で管理することは難しいので、月とか四半期、1年といった時間軸で評価されることになるだろう。
評価サイクルが終わった後、目標数値が達成できていれば、労働時間の長短にかかわらず約束された給与や多額のボーナスが支給される。
逆に言うと、成果があがらなければボーナスは減額され、場合によっては雇用契約を終了されてしまうかもしれない。いまのところ金融ディーラーやアナリスト、金融商品の開発、研究開発、コンサルタントなどが適用対象として想定されている。現状では「1075万円」という年収要件が考えられているが、期末の評価が低すぎて事前に想定した1000万円を下回った場合、どうなるのか気になる。
なお、この制度を前述の工場労働者に当てはめると、無理が生じる。例えば「1日500個」といった無理な目標を与え、それが完成するまで帰れないとなると、賃金不払いの長時間労働が強いられる。「残業代ゼロ」という批判は、このようなケースを想定しているのだろう。
同じように、労働時間と成果の関係が低いからといって、Bのような「長時間・成果小」に当てはめると、従来よりも給与が低くなってしまう。フリーランスの中には時給換算すると最低賃金にも満たない人がいるが、今回の改正でそういう人を増やしてはならない。厚生労働省令で、どのような業務が具体的に定められるか注目したい。(文:深大寺 翔)
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