厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会は、2月13日に「今後の労働時間法制等の在り方について」を公表した。同審議会の労働条件分科会が昨年9月から行ってきた検討を取りまとめたものだ。
この中で「裁量労働制の見直し」などと並んで注目されていたのが、「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設」である。
今回の見直しは、時間ではなく「成果で評価される働き方を希望する労働者」のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするために行われる、とされている。新聞各紙もこの部分に焦点を当てて報じているが、見出しのつけ方にスタンスの違いが表れていて興味深い。
朝日と赤旗は「残業代ゼロ」を貫徹
報告書によると、一定の年収要件を満たし「職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者」を対象として、時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務の適用を除外した「労働時間制度の新たな選択肢」を設けるとしている。
この制度については、分科会での審議経過が明らかになるにつれて、「残業代ゼロ法案」と報じる新聞が出始めた。報告書公表の翌14日には、朝日新聞が「『残業代ゼロ』法案提出へ」という見出しをつけた。
「反対を続けた労働側は最後は押し切られた。働き過ぎを防ぐ仕組みは十分なのか、疑問は残ったままだ」
なぜ労働側は反対したのか。16日には日本共産党のしんぶん赤旗も、「『残業代ゼロ』制度 労基法改悪案提出狙う」という見出しを掲げている。
「そもそも成果主義賃金は、成果が上がらなければ評価されないため、長時間労働を助長する賃金制度です」
その一方で、成果をあげずに会社に居残る「ダラダラ残業」の存在も指摘され、若手社員がキャリコネの口コミで不満を漏らしている。「成果主義」を希望したのが労働者かどうかは分からないが、不良社員にウンザリしている企業が少なくないのは確かだろう。
日経は「ムダな残業代」減らす動きを報じる
赤旗とは対照的に、日経新聞は「脱時間給」という言葉を見出しに取り、金融や商社などの大手企業が具体的な導入に前向きであると報じている。記事には、
「ムダな残業を減らして労働の生産性を高める狙い」
と書かれており、ムダな残業代を減らしたい企業側の問題意識を反映している。
毎日新聞は「成果賃金」導入の報告書、という言葉を見出しに取った。記事では、報告書には書かれていない「ホワイトカラー・エグゼンプション」という用語を使い、第1次安倍政権で改正案要綱まで作りながら国会提出を断念した経緯を説明している。
「高度プロ制度」という見出しをつけたのは、信濃毎日新聞。報告書の言葉を用いているが、内容は「働き過ぎ助長」への懸念が全面に押し出され、本文にはこのような表現もある。
「日本の労働者の立場は企業に対して弱い。新制度適用には本人同意が必要とされてはいても、断れる人は少ないだろう」
これについては「日本の労働者」で一括りにして決め付けず、「同意したくなければきちんと断るべきだ」と主張する必要もあるのではないだろうか。
「これまでより早く帰れる人」出なければおかしい
今回の報告書については、識者からは「労働時間ではなく成果で評価することは、現在の法制度でも可能」として意義を疑問視する声もあるが、法改正が行われれば具体的に社内制度を見直す企業は増えるに違いない。
その際、「これまでより早く帰れる人」や「成果を適切に評価されて給与が上がる人」が出なければおかしいはずだ。今後は年収要件などを拡大する動きが出てくるだろうが、運用実績をきちんとチェックしながら進める必要があるだろう。
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