日本国内の繊維産業は、海外との価格競争などにより衰退の一途をたどり、最盛期と比べると事業所数は4分の1にまで減っている。2015年2月10日の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)は、苦境に立つメイド・イン・ジャパンの生き残りを賭けた試みを紹介した。
昨年3月、熊本市に中小零細の縫製工場とセレクトショップをつなぐサービスを行うベンチャー「シタテル」が設立された。社長の河野秀和さんはもともと経営コンサルタントだったが、経営に苦しむ縫製工場からの相談が相次いだため、この会社を設立した。
「受け継がれている高い技術を持ちながら、その技術をうまく出せていない。工場の営業マンとなり、また流通を新しく作っていく」
セレクトショップ向け小ロット生産を取りまとめる
そう語る河野さんは、全国600店から集めたアンケート調査で、既製服を売る小さなセレクトショップに「オリジナル商品が欲しいけれど発注は10~20着。少量発注では縫製工場に受けてもらえない」という悩みがあることを知る。
そこでセレクトショップから商品の希望を聞き、型紙や生地をシタテルで用意したうえで、縫製工場に生産を依頼するサービスを開始した。店にとってはオリジナル商品を作ることができ、縫製工場にとってはシタテルが新規客を開拓してくれるのだ。
国内の大手ブランドから女性もののシャツの製造を請け負ってきた縫製工場「コーヨーソーイング」は、男性用製品に戸惑いながらもシタテルの依頼を受けた。数が少ないので河野さんは加工賃を少し高めに設定したが、それでもブランド代が発生しない分、商品代は安く抑えられるそうだ。
依頼したセレクトショップの店長は思い通りのデザインと仕立ての良いカットソーに満足そうで、「店としてやりたいことが形になり、オリジナルになった」と喜んでいた。河野さんの元には地元の縫製工場を活性化させたい自治体からの相談も相次いでおり、
「全国で同じような悩みを持つ工場があり、オリジナル商品を作ってもらいたい小売店やブランドがある。それをいかにまとめていくかが、我々の課題です」
と意欲を語っていた。
墨田区の4社共同で「本物の日本製品」ブランド立ち上げ
職人技が集まるアパレル産業の街、東京・墨田区に2014年「Ikiji(イキジ)」というアパレルショップがオープンした。カットソーの「精巧」、ニットの「テルタ」、シャツの「ウィンスロップ」、革製品の「二宮五郎商店」、それぞれ専門の技術をもつ町工場4社が手を組んで、新たなブランドを立ち上げたのだ。
いずれも長い間受け継がれてきた高い技術で、国内外の有名ブランド商品を手がけてきた工場ばかり。取りまとめ役の「精巧」社長、近江誠さんはIkiji設立の理由をこう語る。
「作り手が前に出て、評価を受けることをやってみたいと。技術を含めて、トップの企業が集まってブランド構成している。それで本物の日本製品を作ってみようよと」
これまで日本橋三越など百貨店や商業施設の催事場に出店し、高い評価を受けてきた。そのIkijiが、イタリアで開催される世界最大規模の展示会「ピッティ・イマージネ・ウオモ」から招待された。
海外へ打って出る足掛かりにするべく、メンバーたちが用意したのは高品質と和のデザインを強調した製品だ。ニットのテルタはミラノリブという伸び縮みしない特別の編み地を用意。ジャケットに仕立てるのは、この道30年のベテラン職人だ。そのほか葛飾北斎をモチーフにしたニットで、墨田らしさを表現した。
海外の評価は上々。新規契約も成立
展示会当日は日本酒のサービスをして、世界各国のバイヤーたちにアピール。「成約までいかないのでは」という不安があったというが、バイヤーたちからは「日本製は創造性が高いし品質もいい」と好評だ。
結局、イタリアやノルウェー、アメリカなど6つのショップと契約することかできた。「テルタ」社長の照田晃司さんは「信じられないような気持ち」と喜び安堵した様子だった。
墨田の職人たちは、海外との価格競争が始まる以前は国内工場の大量生産と戦っていたはずで、その中で高い技術を受け継ぎながら生き残ってきた。今後もその技を絶やすことなく受け継いでいってほしいと感じた。(ライター:okei)
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