2015年02月14日 15:51 弁護士ドットコム
外務省に「パスポート返納」を命じられたとして、一躍「時の人」となったフリーカメラマン杉本祐一さん(58)。1994年に海外取材を始めた杉本さんは、撮影した写真をどのように発表し、どんな生活をしていたのだろうか。インタビュー後編では、日本での暮らしと、現在の心境を聞いた。
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――写真はどこで発表していたのですか?
毎日新聞の新潟支局とか、新潟日報に買い取ってもらって発表していた。「写真・杉本祐一」という形で。写真だけでは食えなかった。だから、バイトをしていた。
正規で勤めても、現地に行くとなれば、結局やめることになるから、紡績工場でバイトしたり、土方をしたりして、金を貯めた。金を貯めて、現地に行って、戻ってきて、また貯めて・・・。
スライド上映会も、新潟市内のギャラリーカフェで会場を借りて、開いた。50席くらい椅子を用意して、70人~80人くらい集まった。そこで、ちょっとした生活費を稼いでいた。渡航費まではいかないけど。
――民宿を経営していたと、うかがっていますが。
民宿は2002年の12月から、2012年の3月までやっていた。当時は転々とバイトをしていたから、「ここが安定収入になれば、転々とする必要もないな」と考えて民宿を始めた。たまたま「物件を貸してもいい」という人がいたから借りたんだ。
観光客というよりは、関西に行く途中とか、北海道に行く途中とか、佐渡に行くとか、東京に帰るとか、そんなお客さんがほとんどだった。「観光に来ました」というお客さんはほとんどいなかった。若者やバックパッカーがほとんどだった。
1階が2部屋。2階が食堂と2部屋。2段ベッドにして、相部屋としても泊まれるようにした。個室にしてくださいという人には、個室にしていた。個室の料金は一人2600円、相部屋は一人2000円だった。食事は、トーストとジャム、マーガリン、果物の缶詰とか、卵焼き、そんな簡単な食事を300円くらいで提供していた。一人で切り盛りしていた。
――日々の生活は楽になりましたか。
バイトしなくてもよくなったけど、生活はカツカツだった。いろいろなところで講演していたけれど、民宿が赤字のときがあるから、講演料をもらっても、宿の費用にまわすこともあった。だから、その10年間は、ほとんど現地に行けなかった。収入はバイトしていたときのほうがよかった。
――民宿だけではやっていけなかった?
そう。だから、講演料や、写真のスライド上映会で得た収入を足しにしていた。新聞に載った写真を見た人から、講演の依頼が来ることもあった。現地でとった写真を80枚くらい持って行って、スライド形式で現地の様子を話した。新潟市内にイベントスペースを貸してくれるところがあって、そこで、撮影した写真のスライド上映会を開いていた。渡航費まではいかないけど。
民宿もやりつつ、そういうことをしながら、お金を貯めていた。それでも苦しいときは、2、3日、日雇いの仕事をした。
――なぜ、民宿をたたんでしまったのですか。
福島の原発事故があったからだ。事故直後は、激減なんてものじゃなく、人っ子一人来なかった。事故から半年くらい経って、ようやくチョコチョコとお客さんが来るようになったけど、さすがにやっていけなくなった。結局、事故から1年後くらいに民宿をやめた。今は市内に住んでいる。
――今はどうやって収入を得ているのですか。
民宿やっているときから多少やっていた、写真撮影会社の撮影助手をやったりしている。シリア行きの準備もしなくちゃいけなかったから、今年になってからは、していない。あとは、貯金を切り崩しながら生活している。
――今回のタイミングでシリア行きの計画したことに対して、「売名ではないか」という声も上がっているが。
批判もあるだろうが、そんなことを気にしていたら、取材なんて行ってられない。それに、今回シリア渡航を計画したのは、後藤さんの事件とは関係ない。去年の秋は、(シリアの)コバリに入れなくて、不完全燃焼な取材だったから、改めて行きたいと考えていた。1月5日にHISに行って、航空チケットを手配していた。
杉本さんから話を聞けたのは、約1時間。その間も、杉本さんはひっきりなしに電話応対に追われていた。今は東京の弁護士と連絡を取りながら、パスポートを返してもらうための「行政訴訟」の準備をしているという。「これから支援者と打ち合わせがある」。そう言い残して、杉本さんは雪がぱらつく新潟の街へ、足早に消えていった。
※杉本祐一さんインタビュー(上)に戻る。カメラマンを始めたきっかけを聞いた。
※杉本さんのインタビュー動画はこちら。https://youtube.owacon.moe/watch?v=6olXOOhgd7c
(弁護士ドットコムニュース)