2月10日にホンダ本社で行われたマクラーレン・ホンダF1の発表会に来日した、マクラーレンのCEOロン・デニスに、30分にわたってインタビューを行った。ひとつひとつ言葉を選びながら、真実を包み隠さず正直に話すのはデニスのスタイル。彼の言葉からはマクラーレン・ホンダの進む道が見えてきそうだ。
——いくつか質問があります。ホンダとの関係の復活、ドライバーのこと、F1の現状。忌憚なくお答えいただければ幸いです。まず、ホンダとの関係から始めたいと思います。復活劇はどのようなストーリーで始まったのでしょうか?
「我々は長い間メルセデスと手を組んでいた。彼らとの関係は一対一の平等な関係で生産性も非常に高かった。しかし、共にゴールを達成するうちに彼らはチーム(マクラーレン)に対するコントロールを強めてきた。まあ、当然のことだが、チームの株を買いたいと言ってきたことも何度もある。でもそれは私やマクラーレンの株主の願いと一致するものではなかった。その後彼らは別のチームを買収してエンジンを供給し始めたが、それは避けられない事態だった。すると何が起きるかというと、焦点がぼやけて結果が出せなくなる。それが現実だった」
——それがメルセデスへの不信とホンダへの傾斜に繋がったわけですか。
「そうだ。マクラーレンはホンダに4~5年前から将来的な考えを打診していた。ホンダにとれば我々は以前共に成功を手にしたチームであり、手を組めば共に勝利に向けて集中することが出来るチームだ。焦点がぼやけるような事はない。それがホンダにとってのマクラーレンの魅力だったと思う。私自身、ホンダのコミットメントの仕方とか、何かを成し遂げることに対する日本人のメンタリティは大好きだ。我々の気持ちをホンダが理解してくれて、今回の提携に繋がったことは大変に嬉しく思う」
——以前マクラーレンがホンダと手を組んだ時には、本田宗一郎氏が存命でした。聞いた話ですが、本田さんはエンジンのシリンダーの数についても拘りがあり、マクラーレン側は軽いエンジンが欲しいのでV10を希望したけれど、彼はV12に拘ったとか。
「正直言ってシリンダーの数についてホンダと意見が合わなかったことは思い出せない。ただ、ホンダは頻繁に技術者を入れ替えてきて、ダイナモ上のエンジン性能の重要性とか、燃費、摩擦ロス、エンジン重量などが真に重要だと理解していない技術者もいた。その結果、エンジンが重かったり摩擦ロスが大きかったりしたこともあったが、まあ、それも勉強のひとつだったと思っている。10気筒、12気筒で議論した覚えはないはず」
——本田さんのF1への思いは理解出来ましたか?
「もちろんです。それは十分理解出来ました」
——さて、次にドライバーの話をお聞きしたいと思います。今年、再びフェルナンド・アロンソを獲得しました。
「どのチームにとっても同じだと思うが、特にマクラーレンにとってのフェルナンドの魅力は、彼の勝利への情熱もそうだが、決して諦めないところだ。彼は、2位になれるクルマなら2位になるし、勝てるクルマなら優勝する。また、3位、4位のクルマなら必ず3位、4位を達成する。彼は決してギブアップしない。クルマに関する技術的な知識も彼の力だ。モータースポーツ界のほとんどの人が、彼こそ最高のドライバーだと考えているはずだ。チームメイトのジェンソンにも彼なりの力があり、フェルナンドを補ってくれるはずだ。かつてフェルナンドが我々のところにいた2007年は難しかったが、彼も成長したしチームも更にプロフェッショナルなチームになったと思っている。だから、今回のフェルナンドとマクラーレンは非常にポジティブな組み合わせだと思う」
——2007年からアロンソは変わりましたか?
「変わっていると思う。良い方向に変化していると思う。丸くなった。2007年は私にとれば遠い昔だけれど、若い頃は誰だって知恵がない。でも、今のフェルナンドは理解力も知恵も昔とは比べものにならない。彼と私の共通点がひとつあるとすれば、それは負けず嫌いなところだと思う。私は若い頃と変わらず負けず嫌いだ。私はもう67歳だが、勝ちたいという思いは18歳の時とまったく変わっていない。私がいまだにF1を好きなのもそういう理由が大きい。フェルナンドにもそれと同じようなところがある」
——でも、再び一緒に働くようになるには、2007年の蟠りをなくす必要があったのではないですか?
「もちろん、最初の一歩を踏み出すには仲介役になってくれる人が必要だったけど、彼のマネージメントを通してソフトにアプローチすることを我々は選んだ。そして、まず過去のことを解決した。過去のことについて1~2回話し合いをし、その後は将来の事について話し合った。フェルナンドは、マクラーレン・ホンダに加入すれば勝てる可能性があると納得する必要があったと思う。話し合いを通して、我々は彼を納得させることが出来たと思っている」
——外誌のインタビューに、あなたはアロンソに対してはメローになると語っていた。
「ああ、そう言った。メローというのはソフトと言うことだよ。年齢と共にそうなるんだ」
——では、アロンソのチームメイトとしてバトンかケビン・マグヌッセンを選ばなければならなかった時の心境は?
「ドライバーを選ぶタイミングの問題というのは、メディアが大袈裟に騒ぎ立てすぎたように思う。ケビンとジェンソンとは2014年末まで契約があったという単純な事実で、契約上ではそれより早く決断しなければならない理由はなかった。それに、シーズン後半にもレースをしっかりと戦うという大切な仕事があった。ドライバーのひとりが精神的にダウンした状態でレースを走らせたくなかった。それに今だから言うが、我々はふたりの他にも多くのドライバーと話をしていた。メディアはふたりだけに注目していたけれど、我々は他のドライバーとも話していたんだ。ただ、そのことを言うと、『一体どういうことだ』っていうことになり、すべてが上手くいかなくなる。正しく理解してもらうためにはすべてをオープンにすべきかどうか迷ったが、もしそうするとチームの目標が達成しにくくなるので黙っていたんだ。だから、パブリシティの痛みには耐えなければならなかった。イギリスでは特に大変だった。ジェンソンはイギリス人だからね。でも、そういう話はすぐに忘れられてしまった」
——メディアの考えの及ばないところでいろいろ事は動いているわけですね。
「いまの世の中にはネット社会だから、データベースの中からマクラーレンを検索すれば、ポジティブな話よりネガティブな話の方がたくさん出て来る。でも、それが我々の住む世界だ。過去を隠しているわけではないが、出来れば過去より今後の事に注目して貰いたい」
——メディアに対して不信感もありますよね。
「現実的には事実はひとつしかないのに、自分のところだけ面白い話に仕上げて読者の関心を集めようとするところがある。低俗なメディアになればなるほど、記事はいい加減で話は真実から乖離してしまう。もちろん正確な情報を掲載してくれるメディアもあるが、我々も色んな人に対応しなくてはならない。そうすると、企業でも政治家でもチームでも、最も低い共通分母に追いやられてしまう。レベルの低いメディアはフェアプレーをしないから、当然こちらもガードを硬くする事を余儀なくされる」
——我々メディアには耳の痛い言葉です。ところで、アロンソとバトンという組み合わせには満足ですか?
「目標はレースに勝つことなので、彼らがレースに勝ってくれれば私はとても幸せだ。でも、その前に彼らに戦闘力の高い道具を渡さなければね」
——さて、トップレベルでの戦いはいつ頃から可能でしょう?
「正直言って、バーレーンでもう一度同じ質問をしてくれれば、もう少し正確な答えをあげることが出来ると思う。でも、3~4レースは最初の痛みに耐える必要があると思うから、いつになるかは分からない。だが、我々はすごく頑張っている。クルマは絶対に戦闘力の高いものになると思う。その性能を引き出すまでにはある程度の時間は必要だが、第一の目標に向かって突き進む。それはマクラーレンとホンダが共にレースで勝つこと。チャンピオンシップ・タイトルのことはまだ考えていない」