チームルマンからのスーパーフォーミュラ参戦をファンに報告した小林可夢偉。メガウェブで行われたトークショーでは終始笑顔で、200人のファンへのサイン会、その後の写真撮影会に献身的にサービスを行った。トークショーではファンに向けては国内サーキットでの再会を最後の挨拶としたが、やはり気になるのが、可夢偉のF1への未練だ。
昨年12月の岡山テストの際には、「来季は国内復帰か?」と去就の答えを急ぐ我々メディアに、「まだスーパーフォーミュラに参戦するかどうかよりも、レースを続けるかどうかで迷っているくらいなんですから」と、その時の心境を隠さずに吐露した可夢偉。F1継続の可能性が断たれて以来、レース引退を考えるほど、自身の進路に思い悩んでいた。
そして今季、可夢偉が出した結論はスーパーフォーミュラ参戦だった。「今はスーパーフォーミュラしか決めていません」と可夢偉が話すように、他カテゴリーへの参戦は今のところないという。スーパーフォーミュラへの参戦を決めた理由は「日本のレースを盛り上げたい」という可夢偉の純粋な想いだった。いや、純粋と言うのは誤解があるかもしれない。なぜなら、国内レースを盛り上げるならスーパーGTにも参戦するのが理にかなっているが、今年の可夢偉はスーパーGTを希望しなかった。ご存じのように、近年の国内トップドライバーはスーパーGT優先、または両カテゴリー参戦がスタンダードである。その流れとは異なり、なぜ可夢偉はスーパーフォーミュラのみの参戦を選んだのか?
「今はGTの参戦は考えていないですね。GTはもう、十分盛り上がっているじゃないですか。GTは僕が出て行って何かできるというものでもない。GTはもちろんレベルは高いけど、このスーパーフォーミュラはやっぱりドライバーの戦いの場でもある。そういう場をしっかりと盛り上げることはすごく大切だと思うし、日本のモータースポーツが大きく変わるチャンスは今なのかなと思って、スーパーフォーミュラに乗ることに決めました」
可夢偉なりの国内モータースポーツへの貢献の方法が、自動車メーカーが主役のスーパーGTではなく、ドライバーズレースであるスーパーフォーミュラのみというのは、ある意味、可夢偉らしい決断でもある。それでも、可夢偉がファンのことを優先して考えてくれるのはありがたいが、その一方でファンと我々メディアが期待しているのは、F1、または世界のレースでアグレッシブに暴れてくれる可夢偉の姿である。
「もうおじさんなんで、暴れられないです(笑)」と、その質問をはぐらかす可夢偉。この取材の直前のトークショーで、チームルマンのチームメイトである平川亮が二十歳であることを、しきりと羨ましがっていたが、もちろん、この「おじさん」発言も可夢偉なりのジョークだ。
「F1を諦めたわけではないです。ただ、今できることをやって行きたい」。可夢偉はドライバーとしてのキャリアを続ける決心をした。WECなど他カテゴリーの参戦についても「その時、その時でいろいろあると思うけど、話があれば考えたい」と意欲を見せた。
スーパーフォーミュラの今季の成績に関してはトークショーでも話したように、可夢偉はシビアな見解を見せる。我々メディアはどうしても、F1からの復帰という意味で2000年にフォーミュラ・ニッポンに復帰した高木虎之介の10戦8勝という記録を比べてしまう。
「そんなに甘くはないと思う」。昨年末の岡山テストで連日トップタイムをマークしておりながら、可夢偉はハッキリと今のスーパーフォーミュラのレベルの高さを自覚している。「周りがどうのということではなくて、僕がよく分かっていない。学ぶものも多いと思うので、しっかり短時間でコースを学んで、そして楽しみたい」。
誰もが認める日本人現役最速ドライバーながら、昨年から今年に掛けてレーシングドライバーとしてのキャリアの分岐点に悩み続けた可夢偉。悲境を嘆くのは簡単だが、それでも今の可夢偉はネガティブなことは口にしない。「このスポーツの人気が出ることがすごく重要だと思う。今年帰ってきてレースをすることで、このスポーツが変わるきっかけになればいいなと思って参戦します。これまでと違うスタンスで1年間やっていきたい」
レース引退の迷いから今、国内でレースを続けることを選んだ可夢偉。ようやく方向性が決まって、少しは安堵したのか?
「全然、ホッとなんかしていないですよ! ホッとどころか、これからですから」
ちなみに、改めて聞くがレーシングドライバー小林可夢偉の今後の目標は?
「それはもう、世界征服ですよ」
本気とも冗談ともつかない、いたずらっぽい表情で可夢偉は答える。でも、それでこそ我々が期待する可夢偉の姿。いつもの面白いこと、楽しむことを優先する可夢偉イズムは、まだまだ健在だった。