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「高級料亭つき宿泊施設」では芸がない 人気旅館の経営者が明かす「本当の観光」

2015年02月12日 08:00  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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日本政府が「観光立国」を掲げて11年。海外からの観光客は年々増加しているが、英国と比べると観光客数は3分の1程度。いまひとつブレイクしない日本の観光業には、根本的な考え方の転換が必要ではないか。

2015年2月5日放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、人口7400人の過疎地・鹿児島県霧島市の牧園地区に、世界のセレブも訪れる高級旅館「天空の森」を創りあげた「雅叙苑観光」の田島健夫社長を紹介した。

「1泊3食付き3500円」激安宿の屈辱

「天空の森」は田島氏が10年以上の歳月をかけ、自ら山を切り開いて「手作り」してきた施設。東京ドーム18個分の敷地に宿泊施設が3つしかなく、料金は1人1泊2食付きで12万円から20万円とかなり高額だ。

360度見渡せる里山の色彩豊かな絶景のなか、広々とした80平米のベッドルームやリビングがあるガラス張りの1棟をまるごと独占できる。他の宿泊客の気配などまるでない庭から、美しく雄大な霧島連山を眺める露天風呂に人目を気にせず入ることができる。

東京から毎年1回泊まりに来ているという赤ちゃん連れの夫婦は、常連になった理由をこう語る。

「すべてがリセットされて、リフレッシュできる。値段以上の素晴らしい価値のある場所だと思っています。このお金を払うのは、惜しくないですね」

田島氏がここに至る道のりは、決して平坦ではなかった。もともと家業の湯治場を継ぐ気もなく信用金庫に勤めていたが、1960年代後半に新婚旅行ブームが到来。霧島に多くの観光客が訪れるのを目にすると、田島氏はこれを商機と独立した。

しかし木造2階建ての旅館「雅叙苑」を開業したものの、見栄えのしない宿に新婚客は見向きもしない。仕方なく1泊3食付き3500円の激安宿に変え、発電所の工事関係者を受け入れると、「酌をする女はいないのか!」と怒鳴られることになる。

「地域にしかない魅力を全身で味わうこと」こそ本当の観光

客の求めに応じるがまま、果てはストリップの出張サービスをするまでに。裸の女性に照明を当てながら、田島氏は「何で僕はこんなことをやっているのか。これが観光かよ」という思いに駆られた。このころ「お客さまによって求めるサービスが違う」ことを痛感した。

悩んだ田島氏は、鹿児島に来る都会の客が求めるものを探るため、東京を毎月訪れるようになる。そこで銀座のソニービル1階の展示スペースに植えられた大量の「菜の花」を見かけ、「都会の人は、こんなものでしか季節を感じられないのか」とひらめいた。

「都会にはないものが、鹿児島にはある」

田島氏は「失われた、ふるさとのような風景」を味わえる宿をつくろうと決意。茅葺きの古民家を次々に移築し、全く新たな宿「忘れの里・雅叙苑」をオープンさせた。こちらは1人1泊2万6千円からで、現在も人気の宿になっている。

土間で作られた郷土料理や、庭に鶏が放し飼いされている光景は、東京で生まれ育った小池栄子が「懐かしさを感じる」というほど、日本のふるさとのイメージそのものだ。田島氏は本当の観光について、こう言葉にした。

「単に余暇を過ごすことではなく、地域にしかない魅力を全身で味わうことです」

東京や京都を凌駕しうる「その土地の資産」を探せ

一方で、たいていの日本の温泉旅館では、刺身や伊勢海老・京懐石など全国どこへ行っても同じことをしている。田島氏は「多くの日本旅館が『高級料亭つき宿泊施設』になっている」と苦言を呈する。これは効率重視の成れの果てか、それとも発想の貧困さの現れか。

番組では、外国人観光客が多く訪れるのは東京や京都であり、地方の温泉旅館などは廃業が増えていると伝えていた。しかし田島氏のやり方こそ、多くの観光地が見習うべきであり、東京や京都を凌駕しうる手法ではないだろうか。

とはいえ田島氏は、自分と同じことをするのではなく「自分の土地の良質な資産を見直せ。掘り起こせ」と教えてくれている。そもそも観光とは、「その土地にしかない特別」を見聞しに行くものだとあらためて気付かされた。(ライター:okei)