出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
第65回の今回は、短編集
『逢魔』で初の時代小説に挑戦した唯川恵さんです。恋愛小説の名手として知られる唯川さんですが、本作は“恋愛×官能×時代物”。「牡丹燈籠」「番町皿屋敷」「源氏物語」など日本の古典文学作品をベースに艶やかな言葉でつづられる官能的な物語世界に、思わず引き込まれてしまうはず。身分違いの恋や、魔との邂逅などを描いた8編の作品が収録されています。
今回は唯川さんに本作『逢魔』の内容を中心に、恋愛について、作家活動についてお話をうかがいました。 その後編となります!
(新刊JP編集部/金井元貴)
■「他の女性」がいるから、恋愛をすると感情が乱れる――恋愛小説の名手である唯川さんですが、恋をする女性を描く際に気をつけていることはありますか?唯川:恋愛をすると、優しい自分、醜い自分、嫉妬深い自分、いろんな自分が出てくると思うんですね。でも、それは相手の男性の存在だけではなく、他の女性がいるからなんです。他の女性の影が出てくるから、いろいろな感情が湧いてくる。だから、女性と男性だけではなく、別の女性の存在はとても大事にしていますね。
――なるほど。それは単純に三角関係というわけではなく…。唯川:主人公のライバルになる女性はもちろん、ロールモデルになる女性もそうです。そういった女性が物語をうまく作ってくれる存在になっていると思うんです。
――唯川さんが影響を受けた本を3冊ご紹介していただきたいのですが、お願いできますか?唯川:そうですね…。では、まず森瑤子さんの『情事』を。私の年代としては当然好きになるような、とても濃密な小説です。
次は、手塚治虫さんの『火の鳥』ですね。もう何度も読んで、買い替えも3回くらいしているのですが、小さなことから解放されるような感じがするんです。あまりにも壮大な物語で、読んでいて気持ちが楽になるというか。落ち込んだときに、手にとって読んでいます。
――3冊目はいかがでしょうか。唯川:最後はアンデルセンの『人魚姫』です。私が初めて読んだ物語が「人魚姫」なんですが、あまりにも悲しい結末で、「恋愛は悲しいものなんだな」という刷りこみをされました(笑)ただ、大人になるにつれて、人魚姫はなんて愚かな子なのだろうとか、王子はなぜ最後まで気づかないんだろうとか、いろいろなことを考えさせてくれる作品ですね。
童話でいえば、特にアンデルセン童話は悲恋話が多いのですが、一方でグリム童話は少し残酷で、食べられちゃったりするわけですよね。でも、大人になって読むと、色っぽいように捉えることもできるのですが。食べられるということはやられちゃうということですし。
――今後、唯川さんが書きたいと考えているテーマはありますか?唯川:取り立てて「これ」というテーマはないのですが、30年間作家をやらせてもらってきて、そろそろ自分は一体何が書きたいのかということを問いかけてもいいのかなと思うようになりました。
今回は初めての時代物ということになりましたが、今後も「初めて」に挑戦していきたいですね。今年は実在の人物をモデルにしたフィクションを書くつもりでいますし、アンデルセン童話のような、子どもの頃に読んで影響を受けた作品を自分で翻訳してみたいとも思っています。
――では最後に、唯川さんのファンのみなさまにメッセージをお願いします。唯川:時代物を書くというのは初めてで、もしかしたら戸惑う方もいらっしゃるかもしれません。でも、恋愛の原点が詰まった一冊になっていると思っていて、ファンター小説のような感覚で読んでみていただけると嬉しいです。
■取材後記
『逢魔』を読んでいてまず感じたことは、日本語表現の多様さと艶やかさでした。とても官能的で美しいのです。そんな本作は唯川さんにとっての新たな挑戦となった意欲作。誰もが一度は触れたことのある古典文学が、唯川さん流のアレンジが加わって生まれ変わっています。
ぜひこのインタビューを読んで、『逢魔』に興味を持った読者は、手にとってみてください。とてもエロティックで、とても美しく、とても儚く、とても怖い物語を味わえますよ。
(新刊JP編集部/金井元貴)