ワタミには「転換(てんかん)」という社内用語がありました。不採算店舗や老朽化が目立つ店舗を、改装して生まれ変わらせることです。会社は店の休業を最小限にしたいので、たった7日間の閉店期間で「転換」を終わらせるよう要求します。
常識からは難しい日程ですが、休業による売上減少を最小限に抑えるためには仕方ありません。私も社員時代に経験したことがあるのですが、この仕事は現場の社員にとって非常に負担が重く、かつブラックなものでした。
朝4時に仕事終え、7時までサービス残業
「転換」の準備は、改装業者が入る1か月ほど前から始まります。食材を別の店舗に持っていったり備品を倉庫にしまったりと、日々の営業以外に仕事が増えます。
通常の営業を行うための仕事は、夕方の4時から明け方の4時ごろまでかかります。それが終わってから「転換」の準備が始まり、朝7時ごろまでかかることも珍しくありませんでした。私のころは、準備にかかる仕事は当然「サービス残業」でした。
私が関わったのは「赤い看板」から「白黒の看板」に変わる転換でしたが、無給で働く時間が多く、納得のいかない業務でした。社員たちにタダ働きをさせることで、コストを削減したい思いがあったのでしょう。
並行して新しいスタッフを募集して面接し、新スタッフのトレーニングも行います。7日間の改装工事の直前まで営業を行い、工事中も空いたスペースに搬入を行ったり、作業できない日は別の店でトレーニングを行ったりしました。
やっとのことで新装開店にこぎつけても、まだまだ苦労は終わりません。開店直後には、普段は店に来ない課長や部長といった管理職たちが新しい店の営業状態をチェックしに来ます。もちろんただ見に来るだけでなく、いつも以上に厳しく注意します。
「歩くときはすり足で、足音を立てるな!」
「料理はマニュアル通り。120点じゃないと、お客様に出さないからな!」
「(定規を出して)この料理、2センチくらい大きくないか? 作り直し!」
上司とバイトの「挟み撃ち」に遭う社員
指摘は従業員としては当たり前ともいえることなのですが、これが現場の不評を非常に買うのです。ふだんは顔を出さない管理職の上司たちからピリピリした雰囲気で言われると、現場のモチベーションは下がります。
転換後の店には本社の偉い人が来る可能性があるので、言わないわけにもいかない事情は分かりますが、高圧的に注意されるので面白くありません。
特にアルバイトから見ると、我々のような社員から見ると偉い上司の管理職も、ただの「よく知らない偉そうなおじさん」でしかありません。こういった「指導」がしばらく続くと、
「ていうか誰なんですか、あの人? いきなり怒鳴られたんですけど」
「あの、私こんなにうるさく言われる店で働けません!」
という声があがります。そりゃそうですよね。私たちは普段アルバイトを使うとき、辞められたら困るので顔色を見ながら、おだて、なだめすかしながら働いてもらってますから…。
バイトから不満の声があがるたびに、私たち社員はアルバイトたちの機嫌を取り、上司には愛想を振りまきながら挟み撃ちになっていました。みなさんもお店が新装開店していたら、中で起こっている騒動を想像し、どうぞ社員たちに優しくしてやってください。
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