2月1日(日)へレステスト初日は快晴。「マクラーレン・ホンダ」と呼ばれるニューマシンが1992年以来、23年ぶりに走る日でもある。しかし、本当に走れるのか。昨年11月のアブダビテストでは、暫定車両とはいえ、2日間でわずか5周しかできなかった。さらに言えば1年前のへレスでは「先輩連中」のルノーやフェラーリ、そしてメルセデスさえも初日は散々だった。当時マクラーレンはマシンを動かすことすらできなかったのだ。1年遅れで参入したホンダが二の舞を演じるのは当然とすら思えた。
午前9時。セッション開始とともに王者メルセデスとフェラーリが、ほぼ同時にコースに飛び出して行く。続いてレッドブル、ザウバー、トロロッソ。少し遅れてウイリアムズ。マクラーレンのガレージのシャッターは固く閉ざされたままである。それでも最初は20人ほどの報道陣が寒風の中じっと初走行を待っていた。しかし15分、20分と経ち、エンジンのかかる音すら聞こえず、その数は少しずつ減っていく。そして「アロンソは、まだホスピタリティでのんびりしてるぞ」という情報がトドメとなり、ほぼ誰もいなくなった。
9時49分。ついにシャッターが上がった。9分後にはエンジンがかけられた。正面を覆うパーティションの隙間から覗くと、まだカウルは付いていない。しかし、後ろにズラリと居並ぶスタッフは意外にリラックスした表情だ。その後、計3回エンジン始動し、10時32分にタイヤ装着。その10分後に、アロンソがステアリングを握るMP4-30がコースへと出ていった。
出ては行ったものの、ほとんど止まりそうなスピードである。ボボボボ~と何やら奇妙なエキゾースト音。あとで訊くと、ターボの制御がうまくいかず、ウェイストゲートが勝手に開閉を繰り返したようだ。それでも途中で立ち往生することなく、ピットに帰還。その後、11時10分に再び1周のラン。同37分にはメインストレートを二度通過して、1分40秒738のラップタイムを初めて記録した。
昼休みを挟み、午後から本格走行かと思いきや、結局この日は計6周で終了。1分22秒620で初日トップを記録したフェラーリのセバスチャン・ベッテルからは実に18秒遅れ(!)であった。
午後3時に日本人プレス向けに新井康久ホンダF1総責任者の会見があったのだが、すでにその時点でこれ以上周回できないことはわかっていた。
「ホンダのパワーユニットが新しいだけでなく、車体も昨年までとはまったく違う設計思想で作ってきた。なのでチェックすべきことは双方で山ほどあるし、細かい不具合が出るのは、ある程度仕方ない」
しかし、同時に新井氏はMP4-30の潜在能力の高さに自信を見せていた。
「車体、特に空力部門と我々パワーユニット開発部隊、お互い妥協はしませんからね。徹底的にやり合って、非常に高いレベルで性能を両立できたと思う。マクラーレンは非常にアグレッシブなクルマ作りを目指し、ホンダも十分に援護射撃ができたと自負していますよ」
(柴田久仁夫)