2015年02月01日 11:01 弁護士ドットコム
突然、自分が病気や事故で入院したり、万が一、死んでしまった場合、ペットの世話は誰がするのか――。一人暮らしでペットを飼っている人にとって、愛犬や愛猫の行く末は心配の種だ。
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実の子どものようにペットを飼っていたとしても、動物は人ではないため、財産を相続させることはできない。そこで、ほかの人にペットの世話を「信託」するという新たな仕組みが注目を集めている。
「ペットのための信託」とは、どのような仕組みなのだろうか。ペット問題にくわしい渋谷寛弁護士に聞いた。
「たとえば銀行では、ペット名義の預金通帳を作ることはできませんよね。それは、ペットなどの動物には、法律上の権利の主体性が認められていないからです。同様に、ペットに財産を直接相続させることはできません」
渋谷弁護士はこう説明する。そうだとしても「自身の財産を活かして、誰かにペットの面倒をみてもらいたいと願う飼い主はたくさんいる」という。そんな飼い主たちは、どうすればいいのだろうか。
「これまでの方法としては、
(1)ペットの面倒を見てくれそうな人に、遺言で一定の財産を遺贈する(負担付遺贈)
(2)飼い主自身の死を条件として、面倒を見てくれる人に贈与契約をする(負担付死因贈与)
などがありました。しかし、面倒を見てくれる人を信頼するしかないという問題もあり、それほど普及していなかったのです」
そんな状況のなかで新たにできた「ペットのための信託」とは、どんな仕組みなのか。
「ペットのための信託は、信託法を利用した新たな仕組みです。
いくつかやり方がありますが、一般的には、まず飼い主を代表とする管理法人を設立し、あらかじめペットに残す財産を移します。
次に、自分が面倒を見られなくなった後に代わって飼い主となる人への遺言書を作ります。そのうえで、法人に移された財産が、ペットの飼育料などに使われるよう、飼い主となる人との間で信託契約を結んでおくというものです。
ほかにも、信託銀行や信託会社と契約を結んで、ペットのための信託を専門とするNPOなどに世話を委ねたり、新しい飼い主を探してもらったりする方法もあります」
このような制度が注目を集めているのは、どうしてだろうか。
「ペットのための信託には、
(a)死亡する前でも、たとえば老後施設に入ったときから開始できるなど、開始の条件を柔軟に定めることができる
(b)ペットの面倒を適切におこなっているかどうかを監督する弁護士など専門家を選任することができる
(c)あらかじめ別法人に財産を移すことによって、相続人同士の争いを避けることができる
といったメリットがあるからです」
渋谷弁護士はこのように説明していた。愛するペットのために万一に備える。そんな時代がやってきているのかもしれない。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
渋谷 寛(しぶや・ひろし)弁護士
1997年に渋谷総合法律事務所開設。ペットに関する訴訟事件について多く取り扱う。ペット法学会事務局次長も務める。
事務所名:渋谷総合法律事務所
事務所URL:http://www.s-lawoffice.jp/contents_01.html