労働組合らが賃上げや労働条件の改善を要求する「春闘」が、2015年1月26日の経団連「労使フォーラム」を皮切りに事実上始まった。だが、その影響力は年々下がってきており、若い世代を中心に「何のための組合なの?」という声もある。
テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」は1月27日、「春闘本格化 労組は賃上げの味方?」という特集をトップで放送した。2万5000人の正規社員が所属する日立製作所労働組合の中枢に入り込み、「労組は誰の味方なのか」と厳しい質問を投げかける意欲的な取材を行っている。
「そこで糧を得て働く人」を守るのではなかったか
番組のカメラは、東京・江東区の日立労組の内部を映し出した。30畳の事務室に20人が勤務し、豪華なソファとテレビが置かれた委員長室からは、立派な日本庭園が見える。
しかし従業員の3割を占める非正規労働者は、この組合に加入できない。この点について坂本達哉・中央執行委員長はこう答える。
「本当はもっと非正規の部分も、というところはあるんですが、正直そこまでは無理です。(正規社員の)組合員から財源をいただいているわけですから、組合員の声を100%聞け、というのがニーズだと思います」
正規社員から財源を得ている以上、非正規職員の言い分を聞く必要はないということか。であれば、従業員の3割は「労働組合に守られなくていいのか」ということになる。坂本委員長はその前に「組合の存在意義は?」と問われ、一瞬絶句しながらそれと矛盾する回答をしている。
「企業が存続していくことが重要。そこにいる人はそこで糧を得て働いて、生計を成り立たせているわけですから、それをどう守っていくか、守るのは誰かと言ったら、それは組合ですよ」
まさに巨大企業の労組が抱えるジレンマといった状態だ。この特集はツイッターなどでも話題になっていて、「労組は非正規スルーだもんな」「労組自体を守る為に活動しているとしか思えない」「ヘタすると一緒にリストラ手伝ってるとこあるよ」など冷ややかな意見が目につく。
トヨタ労組が「旗振り役」となるか?
全労働者に占める非正規労働者の割合は14年11月で38%に達し、5年連続で増加する一方、正社員は7年連続で減少している。非正規労働者は、企業にとって欠かせない戦力だ。
厚生労働省の2014年の調査によると、全雇用者数に占める労働組合員の割合(推定組織率)は17.5%で過去最低を更新した。非正規労働者の加入が半数を占めるUAゼンセンの逢見直人会長は番組で、こう危機感を募らせる。
「非正規労働者は処遇が低いとか、有期雇用であるとかいろんな制約があって、正社員に比べると非常に低い状態に置かれている。そういう問題を労働組合が取り上げていかないといけないと思っています」
報道によると、先陣を切って春闘交渉を始めているトヨタ自動車労働組合が、非正規(期間従業員)の日給を300円引き上げる要求をするという。月額で6000円だ。同労組は14年の春闘でも、非正規の日給を200円引き上げることに成功している。
1月26日に開催された経団連の「労使フォーラム」では、榊原会長が「賃金の引き上げに最大限の努力を」と異例の要求をしている。巨大企業の労組が旗振り役になって非正規労働者の賃上げ、ひいては正規・非正規の格差是正が進むのか注目が集まっている。
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