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「若者が損とは言いきれない」 批判集中の厚労省「年金マンガ」はそんなに悪くない?

2015年01月28日 11:11  弁護士ドットコム

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厚生労働省がネットで公開している年金制度の解説マンガ「いっしょに検証!公的年金」の中で、登場人物の年金子(とし・かねこ)さんが「年金が給付されなくなることはありません!」「若者が損とは言えない」などと発言していることがネットで話題になっている。


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このマンガはもともと、厚生労働省が、年金の仕組みや将来の見通しをわかりやすく解説するために2014年5月に公開したものだが、今年1月になって、まとめサイトに取り上げられ、注目を集めた。



マンガでは、少子高齢化で若者が今の高齢者ほど年金をもらえなくなる可能性があることについて、年さんが次のように発言している。  



「今のお年寄りたちは教育や医療も十分でなかった時代に自分たちの親を扶養しながらここまで日本を発展させてきました。そのおかげで今の若い世代が豊かに暮らしていることを考えると受け取る年金に差があったとしてもそれだけで若者が損とは言えないと思いませんか?」



こうしたコメントに対し、ネットでは「論理のすり替えだ」「要約すると我慢しろってことか」などと批判が集まっている。お金の専門家である税理士は、このマンガをどう見たのか。久乗哲税理士に聞いた。



●年金は「なくならないこと」が前提に設計されている


「率直な感想なんですが、このマンガは非常に良くできていると感じました。そして、『公的年金がなくなることはない』かどうかについては、私はなくなることはないと思います」



久乗税理士はこのように述べる。なぜそう思うのだろうか。



「現役世代の納める保険料で高齢者の年金給付を賄う『賦課方式』が採用されていることからもわかるように、そもそも、日本の公的年金は『なくならないこと』を前提に制度が設計されています。



また、日本は、受給年齢など年金制度を改正する『年金改正』を行って、破たんのリスクに備えています。『年金積立金』を備蓄して、税収の激減などの不測の事態に備えています。こうした点からしても、『公的年金がなくなることはない』と思います。



公的年金が『なくなるのか』ということよりも、むしろ、国、最終的には国民が、公的年金を『なくしたい』と思っているかどうかが焦点なのではないでしょうか。



国民が『公的年金は必要ない』と選挙を通じて意思表示をしない限りは、なくならないと思います」



●若者が「損」とは言い切れない?


年金子さんの「若者が損とはいえない」という意見についてはどうだろう。



「この場合の『損』をどう捉えるのかということが問題です。



『生涯にもらえる年金の総額』から『生涯に支払う保険料の総額』を引いた額は、これまで年金を受け取ってきた世代の額が、将来年金を受け取る若者世代に比べて圧倒的に有利だと言われています。



こうした比較からすると、年金の『負担と給付』のバランスは、若者世代にとって『損』ということになるでしょう。『世代間不公平』と呼ばれるものですね」



やはり、若者世代に「損」な部分があるようだ。



「ただ、これは将来、一定の年齢から受給が始まる『老齢年金』を比較した場合の話です。



こうした世代間の比較ではなく、純粋に若者の『負担と給付』でいっても、『損』とはいえない部分があります。それは、『障害者年金』と『遺族年金』です。



たとえば、1級傷害者になった場合、年96万6000円を障害者年金として受給できます。これが一生支給されます。



個人でこうした保険に加入した場合、国民年金保険料よりもはるかに高い保険料をとられます。



年金は老齢年金だけではありません。人によって、事情は異なります。一概に公的年金が『損』とはいえないと思いますよ」



久乗税理士はこのように指摘していた。



【取材協力税理士】


久乗 哲(くのり・さとし)税理士


税理士法人りたっくす代表社員。税理士。立命館大学院政策科学研究科非常勤講師、立命館大学院経済学研究科客員教授、神戸大学経営学部非常勤講師、立命館大学法学部非常勤講師、大阪経済大学経済学部非常勤講師を経て、立命館大学映像学部非常勤講師。第25回日税研究賞入選。主な著書に『新版検証納税者勝訴の判決』(共著)等がある。


事務所名 :税理士法人りたっくす


事務所URL:http://rita-x.tkcnf.com/pc/


(弁護士ドットコムニュース)