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「日本はアルゼンチンのようになれない」 日経新聞の論説委員が残したコメントの意味は?

2015年01月28日 06:40  キャリコネニュース

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日本の真裏にある南米アルゼンチン。かつては世界有数の先進国で、首都ブエノスアイレスは「南米のパリ」と呼ばれるほど栄えていた。しかし2014年には「ハゲタカファンド」との争いの末に戦後6度目のデフォルト(債務不履行)をしてしまい、通貨急落に見舞われるなど経済が不安定な状態だ。

政府の発表ではインフレ率は20%だが、実際には40%と言われており、デモやストライキがアルゼンチン全土で頻発している。2015年1月26日放送の「未来世紀ジパング」(テレビ東京)は、通貨下落や多額の借金など他人事には思えないアルゼンチンを通して、日本の未来を予測していた。

人気取りのバラマキ政策やめない女性大統領

アルゼンチン人の主食は肉だが、国民1人あたりの年間消費量も70キロから10キロも下がった。月収が4000ペソ(5万5千円)のある4人家族は、以前は1日1.5キロ買っていた肉を1キロしか買えず、好物のアサード(炭火焼き肉)もめったに食べられない。

少しお金を持っている人は、不動産や高級車などまとまった買い物をしている。小さな運送会社を経営するエンソさんは「インフレのせいで、アルゼンチンでは貯金をするより使った方が得なのさ」と語る。

アルゼンチンでモヤシやスプラウト野菜を生産する日本企業「サラダコスモ」も、この影響を大きく受けている。1年前に収穫した小麦を出荷できずにいるといい、中田智洋社長は厳しい表情でこう語る。

「出荷しても値段が合わない。現在輸出する場合35%の輸出税がかかる。国際相場より35%減の利益にしかならない」

税率を引き上げたのは、クリスティーナ・フェルナンデス大統領だ。大戦直後に労働者階級を支持層とした大統領の夫とともにバラマキ政策を行った、アルゼンチンの女優・政治家のエバ・ペロンになぞらえ「21世紀のエビータ」と呼ばれる。

フェルナンデス大統領は貧困層に手厚い政策を打ち出し、公立病院無料化などバラマキ的な政策で支持を集めたが、その財源として主要な産業である農業にねらいをつけた。アルゼンチンでは、農家は富裕層なのだ。

大量のリチウムが眠る資源国でもある

税率引き上げを受けて、サラダコスモの中田社長は輸出税がかからないニンニクの生産に力を入れた。発酵させた黒ニンニクを日本向けに健康食品としてネット通販し、順調に売り上げを伸ばしている。

またアルゼンチンは、資源国でもある。標高3900メートルのオラロス塩湖には、リチウムが640万トン眠っているという。エコカーに欠かせない基幹部品となるリチウムイオン電池の材料だ。

その権益を日本の総合商社豊田通商が約39億円を投じ取得した。投資環境が整っておらず各国が手をつけずにいたが、現場に週1度通っている豊田通商の谷本憲太郎さんは「我々独自の開発をしていくという方針でやっています」と語った。

ナビゲーターの太田泰彦氏(日本経済新聞社論説委員兼編集委員)は、「日本はアルゼンチンのようにはなれない」と未来予測した。これまで惨状を見せられてきた番組ゲストたちは「別にならなくてもいい…」と苦笑したが、太田氏は真意をこう解説した。

「もし日本がデフォルトを起こした場合、食糧やエネルギーの自給率が低く、多くを輸入に頼っているため、今までのようには物を購入できず苦しい生活を強いられる。アルゼンチンのようにはいかない」

経済危機が叫ばれるアルゼンチンだが、土地と気候がよい農作物を育むし、鉱物資源も豊富だ。牛肉・穀物といった食糧やエネルギーなど生活に必要なものは国内で十分にまかなえており、基本的に「自給自足できる国」なのである。

悲壮感のない「現代の桃源郷」見習うべきでは

国際ジャーナリストの竹田圭吾氏は「少なくとも(日本には)アルゼンチン型のデフォルトはないのでは」との意見だ。外国に貸しているお金(対外純資産)も300兆円くらいあり、「今の日本はそんなに心配する必要がない」とも語った。

とはいえ、国の借金1000兆円は大きな額だ。太田氏は「支出を減らして歳入を増やすためにも、やはり『稼ぐ力』を強化すること」と繰り返し、MCのシェリーは「つまり我々は頑張って働かなければいけない、ということですね」と話をしめた。

番組を見て日本もこうなるのかと不安になったが、前出の太田氏は日経新聞のウェブサイトで、アルゼンチンの魅力を紹介している。デフォルトにもかかわらず人々の表情は、のどかで楽しげ。街にはタンゴが流れ、食べきれないほどのステーキやワインを味えるとして、

「ブエノスアイレスはきょうも、元先進国の誇りと文化の香りに包まれている。…ここは現代の桃源郷ではないか」

と記している。国の経済がどうであっても一人ひとりの国民は悲壮感を持たず、明るく前向きに自分の人生を生きぬいているところは見習ってもいいのではないか。(ライター:okei)

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