2015年01月27日 15:11 弁護士ドットコム
昨年7月に長崎県佐世保市で起きた女子高生殺害事件。長崎地検は、殺人容疑で逮捕された16歳の少女に「刑事処分が相当」との意見をつけて、家庭裁判所に送致する方向で検討しているという。
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報道によると、昨年8月から今年1月16日まで、医療機関で少女の精神鑑定が実施されていた。鑑定の結果や少女の供述内容から、善悪の判断に問題はなく、地検は「刑事責任能力」を問えると考えているという。
この「刑事責任能力」という言葉は報道などで耳にするが、どんな能力を指すのだろうか。また、刑事責任能力があるかどうか、どのように判断しているのだろうか。元検事で、刑事事件の手続きにくわしい山田直子弁護士に聞いた。
「刑事責任能力は、犯罪を犯した者に、その責任を認めさせる前提となる要件です。ある者が刑罰法規上『違法な行為』をした場合でも、この能力がなければ、刑罰を科すことができません」
山田弁護士はこう解説する。具体的にどんな能力なのだろうか。
「刑事責任能力とは、二つの能力を意味します。一つは、その罪を犯した本人が、物事の是非や善悪を区別できる『事理弁識能力』。もう一つは、事理弁識能力に従って自己の行動を抑制できる『行動制御能力』です」
つまり、善悪の区別ができて、自分自身をコントロールできる力ということだろうか。
「はい。この責任能力を全く欠く状態を『心神喪失』といいます。心神喪失者の犯罪行為については、刑法39条1項で、行為者に刑事責任を問うことができないことになっています。
一方、心神喪失までには至らない『心神耗弱』という状態があります。これは、さきほど説明した『弁識能力』や『制御能力』が全く欠けるほどではないものの、これらの能力が著しく低い状態です。心神耗弱者の行為は、刑法39条2項によって、刑罰が軽減されます」
「心神喪失」も「心神耗弱」も、病名のような名前だが、医者が判断するのだろうか。
「いいえ。心神喪失・心神耗弱は、精神医学上の概念ではありません。法律上の概念ですので、最終的な判断は、裁判所がすることになっています。
裁判所はまず、犯行時の本人の精神の発達や心の状態などを確定します。これは、本人の犯行前の生活状態、病状、犯行の動機や犯行の状態から判断します。
そのあと、本人の精神障害が、犯罪行為の責任能力にどのように影響を及ぼしたか考えます。この影響の大きさしだいで、正常だったか、心神喪失・心神耗弱状態だったかが判断されるのです。
もちろん、精神の発達や心理状態の認定のために、精神医学・心理学等の専門家による精神鑑定が行われることも多々あります。この場合、裁判所は、精神鑑定の結果を踏まえた上で判断することとなります」
責任能力の判断は、裁判所しかできないのだろうか。
「そういうわけではありません。起訴前の捜査段階で、責任能力が全くなかったことが明らかと認められる場合もあります。このときは、検察官の判断で、『心神喪失』を理由として不起訴処分とすることができます」
佐世保の事件では、検察は責任能力を問えると判断して、家裁に送る見込みだ。今後は、家裁が責任能力をどう認定するのかが注目される。
(弁護士ドットコムニュース)