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ジャーナリスト常岡浩介氏「裁判を開くからイスラム国に来てくれ、と言われていた」

2015年01月22日 20:21  弁護士ドットコム

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イスラム国による日本人人質事件に関して1月22日、中東での取材経験が豊富なフリージャーナリストの常岡浩介氏が東京・有楽町の外国特派員協会で記者会見を開いた。イスラム国の司令官とコネクションがあるという常岡氏は「状況は絶望的だが、イスラム国と直接交渉するしかない」として、「人命救助のためなら、警察にも外務省にも協力する。必要ならば、イスラム国にも行く」と訴えた。


【関連記事:「私はイスラム国と交渉ができます」ジャーナリスト常岡浩介さんがネットで表明】


会見動画はこちら


https://youtube.owacon.moe/watch?v=eojsIS2g1J4



●「身代金は支払うべきではない」


身代金を支払うべきだと考えているのか――。記者からの質問に対して、常岡氏は「身代金は支払うべきではない。イスラム国に身代金を支払っても、犯行が繰り返されるだけだと思っている」と答えた。



それでは、イスラム国のような相手と、どのように「交渉」するのだろうか。常岡氏は交渉の方法について、次のように語った。



「3カ月前まで、イスラム国の司令官は、湯川さんを処刑したり、身代金を要求したりするつもりはないと語っていた。なぜ、現状のようになったのか。理由を問いただしたうえで、以前の状態に戻せないのかを考えたい。安倍総理が表明した『支援』についての誤解も解きたい。



こちらからの提案はいくつもできるはずだ。彼らは建前上、イスラム法に従うと主張している。そうであれば、イスラム国への攻撃に関与していない人を脅迫することは、許されないはずだ。もし、裁判を開いてくれれば、たとえ無罪を勝ち取れなくても、むち打ちなどで済むかもしれない」



●「裁判に来てくれ」と言われていた


「裁判」というのは、どういうことか。実は常岡氏は、湯川さんの裁判を開くから、イスラム国に来てくれと、イスラム国側から要請を受けていたのだという。



常岡氏はチェチェン紛争を取材している過程でたまたま、イスラム国のウマル・グラバー司令官と知り合った。そのグラバー司令官から、昨年8月26日に突然、「湯川遥菜氏を拘束しているが、処刑したり、身代金を要求するつもりはない」「スパイの容疑で裁判を開くので、すぐにイスラム国に来てほしい」というメッセージが届いたのだという。



グラバー司令官は当時、湯川さんは英語もアラビア語もできないので意思疎通が取れない状況だと説明。アラビア語と日本語の「通訳者」として、イスラム法学者の中田孝氏に声をかけた。同時に、イスラム法に則って公正に裁判をしたと証明してくれる「立会人」として、ジャーナリストの常岡氏に来てほしいと話したのだという。二人はともに、イスラム教徒でもある。



「湯川さんにイスラム国で会える可能性はかなりあった。裁判で無罪にする見通しも持っていた。なぜなら、湯川さんは『シリアでイスラム教に改宗した』とブログに書いていたからだ。



イスラム法では、イスラム教に改宗した場合、それ以前の罪が許される。彼がイスラム教徒になったと証明すれば、助けられると考えていた」



●10月に湯川氏と面会するはずだった


常岡氏は、中田氏と一緒に昨年9月3日に日本を出て、9月5日にはイスラム国の領域に入ったという。そして、9月6日にシリア北部の都市ラッカで、オマル司令官と再会した。ラッカは、イスラム国が”首都”と称している街だ。



ところが、その9月6日は、アサド政権による激しい空爆が行われていて、オマル司令官が無線で上官に呼びかけても、指揮系統の混乱で連絡が取れなかった。2日後に上官と連絡が取れたが、「1週間待って仕切り直そう」という内容だった。



そこで常岡氏は、オマル司令官と「10月に再訪し、湯川さんと対面する」という約束をして、帰国したのだという。



●外務省・警察から接触はない


しかし、そのイスラム国への出発が目前に迫った10月6日、常岡さんは北大生の私戦予備・陰謀の容疑で、警視庁の公安外事3課の捜査を受けることになった。そして、取材のために準備したカメラやパソコン、ハードディスクなどが押収されたため、渡航が不可能になってしまったのだという。



さらに、イスラム国関係の連絡先を押収されたことで、ジャーナリストとして取材源の秘匿や保護が難しくなってしまった。常岡氏は捜査を受けたことをイスラム国の関係者に告げ、その後、積極的には連絡をとっていなかったのだという。



今回アップロードされたビデオを見て、常岡氏は「状況が完全にひっくり返っていることを知って驚いた」。そして、政府・警察への協力を申し出ることにしたのだという。



「いまのところ、日本の外務省、警察からの接触は全くない」。常岡氏はそう話していた。


(弁護士ドットコムニュース)