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強姦事件の被告人側弁護士「告訴取り下げたらビデオ処分する」新聞報道をどうみるか?

2015年01月20日 17:21  弁護士ドットコム

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宮崎市のオイルマッサージ店で、女性客ら5人に性的暴行などを加えたとして、強姦罪などに問われている男性経営者の初公判が1月16日、宮崎地裁で開かれた。その模様を報じた毎日新聞の記事が波紋を呼んでいる。報道によると、証人として出廷した被害者の20代女性が「被告側弁護士から『暴行の様子を撮影したビデオがある。告訴を取り下げれば処分する』と脅された」と証言したというのだ。


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毎日新聞によると、被害者の女性はこの日、公判に出廷し、2014年3月に代理人弁護士を通じて、被告人側の弁護士から「『法廷でビデオが流されると分かっているのか。流されたくなかったら告訴取り下げをしろ。示談金はゼロ』と言われた」と証言したという。交渉は決裂し、経営者の男性は強姦罪などで起訴されたが、起訴内容を否認しているとされる。



毎日新聞の記事によれば、被告人側の弁護士は「『告訴を取り下げたら(ビデオを)処分するが、どうする』とは言った」と記者に答えたが、「法廷での被害者の不利益が大きいのではないかと考え、選択肢として示した」と説明し、脅しではなかったと主張したという。



この報道を受け、ネットでは被告人側の弁護士に対して「絵に描いたような悪徳弁護士だね」「弁護士ってこんなにゲスな職業だったっけ?」などと批判する声が多くあがっている。このニュースを刑事事件にくわしい弁護士はどうみるのか。萩原猛弁護士に聞いた。



●現時点では被告人が「有罪」と決めつけられない


「今回のニュースについて、マスコミは被告人の有罪を前提とした報道をしているようです。しかし、毎日新聞の記事では『起訴内容を否認している』とされています。また、共同通信の報道によれば、被告人は『相手の同意があった』と主張しているようです。



したがって、現時点では、被告人が無罪を主張している以上、有罪だと決めつけることはできません。マスコミ報道のすべてを鵜呑みにするのではなく、冷静に状況を見極めることが肝要でしょう」



萩原弁護士はまず、このように指摘した。では、今回の件をどう見ればいいのか。



「この事件では、女性が問題の行為について同意していたかどうかが、大きな争点だと考えられます。



仮に、撮影されたビデオが、『被害者と称する女性』が行為に同意していたことを、証明できるものだったとしましょう。



もしそうであったとすれば、被告人側の弁護士が、女性の代理人弁護士に対して『被告人の無罪を裏付けるビデオがあるから、告訴を取り下げてはどうか』と提案することは、あり得るのではないかと思います。



また、共同通信の記事によると、女性はビデオで撮影されていることを知らなかったようです。無断で撮影されたビデオは、女性のプライバシーを侵害するものですから、被告人側の弁護士が、告訴が取り下げられることを前提に『ビデオを処分する』と提案することも、考えられないわけではありません。強姦罪は親告罪ですから、告訴が取り消されれば、被告人が処罰されることはなくなりますので」



●被告人の「無罪」を立証するための活動だったとしたら?


しかし、毎日新聞の報道によると、被害を受けたという女性は、被告人側の弁護士から「法廷でビデオが流されると分かっているのか。流されたくなかったら告訴取り下げをしろ。示談金はゼロ」と言われたと、法廷で証言したとされる。この発言についてはどう見るのか。



「仮定の話ですが、ビデオが『同意』を証明できるものだったとします。それにもかかわらず、女性があくまでも『同意はなかった』と主張し、告訴を取り消さないのであれば、被告人側の弁護士としては、被告人の無罪を立証するために『ビデオを捜査機関や裁判所に提出することになる』と告げることもあり得るでしょう。



被告人側の弁護士が『無罪』を裏付けるために、そのような言い方をしたのだとしたら、弁護活動のあり方としてあり得るのではないかと思います。また、女性にも代理人弁護士がついていたようですので、交渉は弁護士同士で行われたのかもしれません。弁護士同士ですから率直な意見交換がされていた場合、それが女性にどう伝わったのか・・・女性が歪んだ受取り方をした可能性もあるでしょう。



ビデオが無罪を立証するようなものではなく、被告人が有罪になる可能性が高い場合はどうでしょうか? この場合は、ビデオは被告人の有罪を立証する証拠ですから、弁護人であっても無闇に処分すれば『証拠隠滅罪』に問われます。捜査機関がこのビデオを押収すれば、裁判所に証拠として提出し、法廷で上映される可能性が高いでしょう。そのあたりの事情を弁護人がどのような『言い方』で説明したのかが問題になるでしょう」



萩原弁護士はこのように話していた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
萩原 猛(はぎわら・たけし)弁護士
埼玉県・東京都を中心に、刑事弁護を中心に弁護活動を行う。いっぽうで、交通事故・医療過誤等の人身傷害損害賠償請求事件をはじめ、男女関係・名誉毀損等に起因する慰謝料請求事件や、欠陥住宅訴訟など様々な損害賠償請求事件も扱う。
事務所名:大宮法科大学院大学リーガルクリニック・ロード法律事務所
事務所URL:http://www.takehagiwara.jp/