間もなく発表される2015年のF1マシン。今年は、2014年に多くのチームが採用し、ファンの不評を買った“醜いノーズ”を改める規則変更が導入されるなど、その外観に再び注目が集まっている。
ここでは、新しい規則によりノーズ中心の処理がどう変わるのか、空力への影響も含めて解説、2015年型マシンの姿を予想してみる。
2014年のF1は、良く言えば独創的、悪く言えば奇抜なノーズの品評会のようだった。これは、ノーズ先端を低くする規定が導入されたことに端を発する。この規定は、ノーズ先端から5センチ後方の位置の最少断面積を90平方センチとし、その断面を寸法計測基準面(モノコックシャシーの底面)より25センチから13.5センチの高さの中にあることと規定している。こうすることで、もしも横から他車の側面に衝突した場合に、ノーズ先端で相手ドライバーの頭部を叩いてしまうことで致命的な外傷を負わせてしまうのを防ぐという、重要な意味があった。
ところがこのノーズ規定の条文には抜け穴があり、それを読み取った各チームはそれぞれの解釈で、それぞれの形を採用。多くは2013年のまでのノーズを短くしたような形状で、その下に細く低いノーズをぶら下げることで規定をクリアしようとした。ロータスは、先端そのものを2本にした。
これらのやり方は、気流を車体の上下にわけるノーズ先端を、規定で求められた本来の先端よりも後ろにして、より高いところに位置させることで、少しでも2013年のノーズ形状に近づけ、より多くの気流がノーズ下から車体底に向かうようにし、ディフューザーへと流れる気流を増大、ダウンフォース量を確保しようとしている。
一方、ノーズを低くして安全性を向上させようとする2014年規定の精神にもっとも忠実だったのはフェラーリF14 TとメルセデスW05だった。ただ、メルセデスはシーズン途中で若干短くやや高いノーズに変更した。
このように、2014年は規則の精神の裏を突いたノーズが横行、その結果、ファンからは「見苦しい」という非難の声が上がり、F1人気下降の一因にもなった。そのため、F1チームとFIAは2015年に向けて新たな対策を講じることになった。
●法の抜け穴をつぶし、より低いノーズにした2015年規定
2015年の規定変更でも、ノーズ先端から5センチ後方での最少断面が90平方センチという点は同じだが、これに加えて断面部分の最大幅を14センチにするという条項が加えられた。これをもとに計算すると、その断面部分の厚さは最少でも約6.5センチにする必要があり、これで先端部分の幅を広げることで極端に薄い断面にできなくしている。しかも、その断面部分の高さは、寸法計測基準面(モノコックシャシーの底面)より22センチから13.5センチの高さの中にあるように定められ、上限が3センチ低くされた。
さらに、2015年規定では、第2の断面部分を設けている。これはノーズ先端より15センチ後方の位置で、最大幅は33センチまで、最少断面積は200平方センチとされている。計算すると、ここでも最低約6センチの厚さが求められることになる。
この断面部分からモノコック先端までは、テーパー形状(前端がより細くなっていく形状)にしなければならないと規定され、昨年のようにいきなり細いノーズ先端をとってつけたような形を不可能にしている。加えて、このふたつの断面部分は、それぞれ車体中心線上でシンメトリカル(左右対称)になるように配置されなければならないとされているため、昨年のロータスが採用した2本ノーズも封じられることになった。
●空力性能への影響は?
かくして、2015年の規定は、ノーズが奇抜な形状になる抜け穴を可能な限り封じたため、新しく登場するノーズの形状は、昨年のフェラーリF14 Tのノーズをもとに、その先端をより低くしたような形状になるか、あるいは、昨年のアメリカGPの金曜日にロータスが試したものに近い形になるはずだ。
そもそも、昨年奇抜なノーズが流行ったのは、ノーズ下から車体底面に流れる気流を確保したいという理由から。排気管の位置が車体中央のギヤボックス上に移ったことで、排気ガスの勢いで車体底での気流を加速させてダウンフォースを増やす「エキゾーストブロー」が出来なくなり、なんとかノーズを高くして前方からの気流を出来る限り確保したかったのだ。
一方、昨年規定通りのノーズを選択したフェラーリF14 Tはノーズ先端が低く、その下のエリアが狭いために車体底へと導かれる気流が減ってしまい、結果として最も効率よくダウンフォースを稼ぎ出す車体底面での空力性能がほかよりも劣っていた。フェラーリ同様、シーズン序盤まで低いノーズを採用していたメルセデスは、途中でノーズを若干短くすることで、ノーズ下を広くし気流を確保している。
では、ノーズ先端が低くても1993年のマクラーレンMP4/8のようにモノコックのノーズ部分(ドライバーの脚が入る部分)を高くすれば車体底面への気流は得られるのでは? だが、現代の規定ではモノコックの最少断面寸法規定があるうえ、やはり昨年からモノコックの前端が10センチ下げられているため、かつてのようにモノコックのノーズ部分を極端に高くすることはできなくなっている。
●新しいノーズの見た目
おそらく2015年のF1マシンは、先にも述べたように、2014年のフェラーリF14 Tのノーズをもとに、より先端を低くしたような形になるだろう。昨年のアメリカGPで金曜日にロータスがテストしたノーズがこの2015年型ノーズにより近い形といえる。また、規定の網掛けがより細かくなったことで、昨年のような奇抜な形のノーズは作りにくくなり、全車が比較的似た形のノーズになってくるだろう。
車体の先端であるノーズの形を変えるということは、そこから後ろ、つまり車体全体へと向かう気流に大きな影響を与えることになり、チームは車体全体の空力を見直すことになるはずだ。その反面、車体側はすでに多くの規制を受け、あまり奇抜で独創的な形ができないようにされているため、ノーズ以外の部分は、昨年の形から著しい変化は望めないだろう。ただ、ノーズ先端がより低くなることで車体底面で得られるダウンフォース量も2014年より減少、その失われたダウンフォースを補いコーナーやブレーキング時の安定を確保しようとすると、多少は空気抵抗が増えてもより前後のウイングに頼ることになると考えられる。
結果、より前後のウイングは規制のなかで出来るかかぎりダウンフォースを得やすい形を追求してくるだろう。
このように、規制だらけで車体形状を大きく変化できない中で、2015年はノーズというマシン全体の空力性能上とても重要なパーツの変更を強いることになる。それに対し、ダウンフォース量の確保と空気抵抗の抑制という相反する課題のなかで、チームは細部の変更や見直しによって最善の策を見出そうとしてくるはずだ。
だが、F1チームには優れた研究開発装置や人材がそろっている。創造性も豊かなF1チームなら、テストや開発に厳しい規制があっても、比較的早い段階で解決策を見つけてくるはず。そして、より規制がかかった2015年のマシンが2014年の性能とタイムにどこまで迫れるのか、それとも2014年のマシンを凌いでくるのか? そこが2015年のF1の注目ポイントかつ楽しみのひとつになるだろう。
(Shigenori Ogura)