2015年01月18日 11:11 弁護士ドットコム
ウーロン茶1杯飲んだら96万円を請求された――。中国・上海の飲食店などで、日本人が「ぼったくり被害」に遭う事例が急増している。
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朝日新聞によると、ある男性は、マッサージ店でウーロン茶を1杯飲んだだけで約5万元(約96万円)を請求され、複数の男から羽交い締めされるなどしたため、身の危険を感じてクレジットカードで支払ったという。
日本人のぼったくり被害は、在上海日本総領事館が把握しているだけでも、2014年に約180件発生している。これは5年前の4倍だそうだ。
一般論として、日本人が中国でぼったくり被害に遭った場合、法的な手続でお金を取り返せる可能性はあるのだろうか。中国法にくわしい森川伸吾弁護士に聞いた。
「損害賠償請求の裁判を起こせば、取り戻せる可能性があります。ただし、その裁判は中国で行う必要があります。日本の裁判所で勝訴しても、中国で強制執行をすることが、実務上できないからです」
強制執行とは、判決の内容を強制的に実現する手続きのことだ。中国の法律でも、お金を取り戻せる可能性はあるのだろうか?
「本件のように暴行や脅迫により支払いを強要された場合、中国法上、契約は無効で、不法行為も成立します。したがって、法律論としては、被害者は店に対して支払金額の返還を求めることができます」
では、中国での裁判で勝つためのポイントは何だろう。
「被害をしっかりと立証することが必要です。
中国最高人民法院の規定からすると、本件の被害者が中国で勝訴するためには、次の二点を、被害者のほうで証明する必要がありそうです。
(1)お茶を1杯飲んだだけであること
(2)96万円の支払が暴行や脅迫によるものであること」
具体的には、どうやって証明すればよいだろう。
「『お茶1杯、96万円』と明記された領収書・明細書や当時のやりとりの録音があれば、証明できるかもしれません。しかし、そうでなければ、被害者が証明することは難しいと思います」
弁護士に依頼するとしたら、中国の弁護士資格を持つ弁護士に頼む必要があるだろうか。
「中国の訴訟は弁護士を付けずに行うことも可能です。しかし実際問題として、日本人が自力で中国で訴訟を行うことは無理でしょうから、中国の弁護士を起用することになります。
『中国語しかできない弁護士』であれば、安い弁護士を見つけることも可能と思いますが、『英語や日本語ができる弁護士』を起用する場合、弁護士費用は比較的高額になります。
また、仮に裁判で勝っても、加害者の財産が見つからず強制執行ができない可能性があります。さらに、お金を取り戻しても、費用が取り戻した金額よりもかかってしまう、つまり『費用倒れ』になる可能性があります」
では、裁判以外の方法はどうだろう?
「訴訟以外の方法としては、中国の消費者協会や行政機関への苦情申し立てや弁護士による店との交渉等も一応は考えられます。
ただし、ぼったくり行為についての証拠がないと、これらの方法もうまく行かないことが多いと予想されます」
森川弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
森川 伸吾(もりかわ・しんご)弁護士
1968年、愛知県名古屋市生まれ。93年に弁護士登録(東京護士会)。99年にニューヨーク大学ロースクール卒業、2000年に北京大学法学院卒業。東京を拠点に活動。得意案件は中国企業との契約や紛争処理など。中国法に関する数々の論文を発表。
事務所名:曾我法律事務所
事務所URL:http://sogalaw.com/