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見据えたのは“将来”。スーパーGT300クラス・スバルBRZ体制変革の理由

2015年01月15日 20:40  AUTOSPORT web

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BRZをドライブすることになった井口卓人と山内英輝。山内はメーカーワークスでの仕事となったが、前所属のGAINERのスタッフは発表会にも訪れるなど、山内の門出を祝福した
1月9日に開催された東京オートサロンの会場で、2015年のモータースポーツ体制を発表したスバル。スーパーGT300クラスでは、新たにタイヤをこれまでのミシュランからダンロップに変更したほか、ドライバーでも新たに山内英輝を起用。ドラスティックと言える変化となった。

 GT300クラスに1997年から参戦するスバル車だが、2009年からはスバルとR&D SPORTが組む形で参戦。2012年からそれまでのレガシィからBRZにマシンが変更され、2014年シーズンは佐々木孝太/井口卓人というコンビで参戦。2013年の予選スピードを決勝でも活かすべく改良が進められ、富士で1勝を挙げた。

 予選での速さ、そして1勝を挙げた実績があれば、スーパーGTの慣例で言えば翌年大きな変化を求めることはそれほど多くはない。しかし、長年チームに在籍していた佐々木に代えての山内の起用、そしてミシュランからダンロップへの変更という大きな変化をつけてきた理由はなんなのだろうか。チームを率いる辰巳英治総監督に聞いた。

●「3年後を見据えた選択」。山内起用の理由
 辰巳総監督によれば、2015年に向けた体制強化に向けた変革の中で、まず目を付けていたのは山内だという。「その前から注意して見てはいましたが、意識しだしたのはタイからですね」と辰巳総監督は言う。

「富士重工と将来に向けて話をしていく中で、当然富士重工からも結果については言われる訳です。そこで、『じゃあ3年後はどうなんですか?』となった時に、我々としても将来を見越したドライバー選択をしたかった」

 もちろん佐々木も井口も、実績と速さがある。しかし、16年以降将来を見据え辰巳総監督がもし山内を起用しようと思った時に、山内が別メーカーのドライバーになっていたら……!?

「彼はプライベートチームのドライバーだった。ならば真っ先に手をつけてしまおうと。GAINERの1号車に乗ってしまっていたらまた話は別だったかもしれませんけどね」と辰巳総監督は、2015年というよりも、その先を見据えて山内獲得を目指したと明かしてくれた。佐々木もまだまだ速さはある。しかし、将来を重視した決断だったということだろう。

 辰巳総監督も「最初は『じゃあ2015年に』とはなっていなかった」という。しかし、2014年にGAINER Rn-SPORTS SLSを駆り見せつけた山内のスピードに、「こういうのを獲っておかないと、将来強力なライバルになってしまうと思った」と獲得が決まったという訳だ。

●クルマの欠点を補っていたミシュラン
 もうひとつの大きな変革がタイヤだ。2013~14年まで、BRZはGT500向けに作られていたタイヤを装着し戦っていた。しかし、予選での速さについて辰巳総監督は「ポールポジションはクルマで獲ったポールだと思っていない。タイヤで獲ったと思っている」と分析する。これはいったいどういうことなのか。

「もちろんドライバーの頑張りもありましたが、今のBRZとミシュランの組み合わせだったら、トップドライバーが乗ったらほとんどがポールタイムを出すことができると思う。それくらいミシュランは良かった」

「でもレースになると長持ちしないんです。それはなぜ? となると、タイヤでポールを獲っていたから。根本的にクルマを直さなきゃいけないんです。極端な話をすると、予選は速いけど、レースではタイヤが合っているのかどうかが分からない。それはなぜかというと、GT500のタイヤだから。他にGT300で履いているチームがないので、本当に合っているのかどうか検証のしようがなかったんです」

 辰巳総監督の話を総合すると、GT500に向けた設計であるミシュランを使用すると、車両の欠点をタイヤが補ってしまい、一発のタイムは出ても決勝のロングランではタイムが落ち込んでしまうという分析だ。そこで、BRZ向けの設計をしてくれる供給数の少ないメーカーが候補としてあがったのが、ニュルブルクリンクでも履いているダンロップだ。

「ダンロップさんとシーズン終わりにいろいろ話をしていたんです。ダンロップさんは500で1台、300で2台いますが、正直言うとこれまでは、そこまで目立っていた訳ではない。でも、絶対勝ちたいと思っているんです。そういうところに賭けたということですね」

 ちなみに、14年にダンロップを履いていた山内の起用と、ダンロップへの変更に関係性はないという。「よく考えてみたら『山内、ダンロップ履いてたな』くらいの感じです(笑)」とのこと。

●テーマは『基本性能』の底上げ
 辰巳総監督のコメントにもあったとおり、ドライバー、タイヤに加え、マシンの面でも大きな変更が加えられるという。実は、オフのうちにBRZをテストコースに持ち込み、かつてスバルの開発ドライバーを務めていた辰巳総監督が自らステアリングを握ったのだとか。

 そうして見えてきたのは、「まっすぐ走らない」ということだ。「やっぱり、ハード的にまずいところがある。市販車はもっとまっすぐ走るのに、レーシングカーだからといってまっすぐ走らなくていいわけではないと思うんです」と辰巳総監督は言う。

「コーナリングの限界は高いですが、基本性能がいいのか、悪いのかというのはなかなか分からないんですよね。限界域でオーバー、アンダーというのは分かっても、基本性能をやはり上げないといけない。その意味ではタイヤがすごく良かったので、ごまかされていた部分があると思うんです。ただ、レースでもたなかったのは基本性能の部分があったと思うんです」

 辰巳総監督は、2015年に向けてこれまでレーシングカーのセオリーで作られてきたものに対し、「市販車を作っている我々のノウハウをつぎ込んでいきたい」という。大きなテーマは、何度も言葉に出ているとおり、基本性能の底上げだ。ライバルであるGT3カーは、基本的に市販車の強化に留まっているが、乗りやすくロングランでも高いペースを維持できる。BRZはレーシングカーのセオリーで作られているが、「運転が難しすぎてしまう」と評する。

 将来のために若き才能を迎え、クルマとしてのポテンシャルをきっちりと上げていく。2015年に向けたスバルGT300の体制変更の狙いはそこにある。今のGT300は非常に高次元な戦いが展開されており、いかに今回のスバルの体制変更がうまくハマったとしても、チャンピオンを獲るのはそう簡単なことではない。しかし、目標に向けた強烈なほどの意気込みが伝わってくる変革が、2015年にどう作用していくのか。大いに楽しみにしたいところだ。