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河瀬直美監督×樹木希林、どら焼き屋に勤める元ハンセン病患者を描く映画『あん』

2015年01月13日 19:20  CINRA.NET

CINRA.NET

『あん』 ©映画『あん』製作委員会
河瀬直美監督の映画『あん』が、6月から全国で公開される。

1997年公開の『萌の朱雀』で『第50回カンヌ国際映画祭』新人監督賞にあたるカメラドールを受賞し、2007年公開の『殯の森』では『第60回カンヌ国際映画祭』のグランプリに輝いた河瀬直美。1月7日には『フランス芸術文化勲章』を受章している。

新作となる『あん』は、ドリアン助川の同名小説を原作に、元ハンセン病患者であることが近所の噂になったため、勤め先のどら焼き屋「どら春」を去った老女・徳江を描いた作品。どら春の雇われ店長・千太郎と近所の女子中学生・ワカナが、それぞれの想いを抱えながら徳江の行方を探す、というあらすじとなる。主人公の徳江を、樹木希林が演じる。

なお、樹木がナレーションを務める特報が公開中。樹木は、同作に出演するにあたって元ハンセン病の人々に会いに行き、役作りを行ったという。

【河瀬直美監督のコメント】
桜は死をイメージする花。あんなにも狂喜的に乱れ咲き、あんなにも潔く散り急ぐ花もほかにはないだろう。だから、人はその人生を託すように桜を愛めでるのか...。
そんな満開の「桜」の下で出逢った二人。千太郎と徳江。
彼らの生きてきた時代やその人生は明らかに違うが、それぞれの魂がさまよっている場所は限りなく近い。社会はいつも人の希望を叶えるとは限らない。時に希望を奪う場所でもある。
主人公・徳江の感じる「幸せ」の有り様は、わたしたち現代社会を生きる人間へ多くを学ばせる。これは、この時代に誕生されるべくして誕生する物語だ。
人間の尊厳を奪われてもなお、「生きよう」とした人の物語である。
閉ざされた「壁」の存在を超えた心でつながりあえる作品としてこの世界に誕生させるべき『あん』という映画。人は幾度の挫折を乗り越えてその高みに行くことができるのだろう。物言わぬものと向き合い、もの言わずともそれらが変化し始めるとき、その交歓を描く作品になれればと思う。
わたしが観なければ、夜空に現れた満月も存在しないのと同じだ。
ただそこに在るだけではない。わたしがいるからそれが存在する。
お互いがお互いをそう想いあい慈しみあう世界への扉がここにある。

【ドリアン助川のコメント】
人はなんのために生まれてきたのだろう。どのように生きることが幸福なのだろう。まるで少年の問い掛けのようではありますが、小説「あん」を書くにいたった直接の動機はそこにあります。
究極の逆境にあっても、生きることを捨てず、己の人生に花を咲かそうとした人々。映画『あん』が創造されようとしているとき、今作にかかわるあらゆるスタッフへの感謝とともに、厳しい運命のなかでも微笑みを失わなかった彼ら彼女らへの畏敬の念があらたに込み上げてくるのです。
この感覚を撮れるとしたら河瀬直美監督しかいないと思いました。運命の人を演じられるとしたら女優樹木希林しかいないと思いました。今は亡き多くの魂とともに、映画『あん』を取り巻く情熱に拍手を送ります。

【樹木希林のコメント】
河瀬監督から映画出演のご相談を頂いてから約1年後、正式にお話を頂きましたが、それからすぐにドリアン助川さんの原作を読んで深く感銘を受けました。自分が全く知らない世界-閉じ込められた人生-を知るという機会に巡り会い、実際の元患者さん達にはすぐに会いにいきました。彼等から日々の生活のこと等を聞き、過去には隔離されて生活していた方々のことを全く知らないで今に至る自分を恥じました。厳しい時代だったであろう過去を持ち、今は当たり前に生きている彼等から、“生きている”という人間のたくましさを感じます。そういった事実をただ河瀬監督が悲劇的に描くのではないということ、わかっているので、安心して演じております。