都内の一般事務で働くAさんは、30代の独身女性。年末年始に帰省した際に、実家ですることもないのでアルバイトでもしようかと思いました。そこで地元の派遣会社に電話すると、「仕事はたくさんありますよ」との返事が。
そこで実家にほど近い自動車ディーラーのショールームで働きたいと伝えると、急に年収を聞かれました。なぜそんなことを聞くのか疑問を抱きながらも「350万円くらいですけど…」と少し水増しして答えたところ、担当者は残念そうな声でこう答えたのだそうです。
「それではちょっと年収が足りませんね。500万くらいないと」
2012年の派遣法改正で労働契約は「31日以上」に
Aさんは聞き違いかと思い、「いえ、500万未満ですよ。そんなにもらっていません。おカネがないから、年末年始に働きたいんですけど」と再度確認すると、
「ですから、年収が500万円以上ある方じゃないと日雇い派遣はダメなんです」
という返答が。普段の給料が安すぎて、親戚にもお小遣いがあげられないから日雇いで働こうと思ったのに…。なぜこのような制限が掛かっているのか、何か抜け道はないのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いてみた。
――年末年始の空いている時間を、有効に使えなくなってしまうのは悔しいですよね…。年収500万円以上じゃないと日雇派遣で働けないとの制限を、Aさんが疑問に感じるお気持ちはよくわかります。
派遣会社を利用する場合、まず派遣会社と労働契約を結び、自動車ディーラーに派遣され、ディーラーの指示に従って仕事をするという流れになりますが、2012年に労働者派遣法が改正され、日雇派遣(日々または30日以内の期間を定めて雇用する労働者派遣)は原則として禁止されました。
このため派遣会社との間の労働契約の期間は31日以上でなければならなくなり、年末年始だけといった短期派遣は、原則としてできなくなっているのです。
例外に「専門26業務」や「60歳以上」「年収500万円以上」など
この規制の理由は、日雇派遣は短い期間で労働契約が終了し、責任の所在が不明確となることから、違法な業務への派遣や労働災害の発生が問題視されるようになったためです。不安定雇用やワーキングプアの増加を阻止するという目的もあったといえるでしょう。
さて、日雇派遣は原則禁止となりましたが、例外もあります。まず、ソフトウェア開発や機械設計、デモンストレーションなどの「専門26業務」に派遣される場合には、例外として日雇派遣が認められます。このほか、
・60歳以上の者
・雇用保険の適用を受けない学生(いわゆる「昼間学生」)
・副業として従事する者(生業収入が500万円以上の者に限る)
・主たる生計者以外の者(世帯収入が500万円以上の者に限る)
も日雇派遣が可能です。派遣会社の担当者が「500万くらいないと」と指摘したのは、この部分でしょう。
それではAさんは本当に派遣として働けないのかといえば、そうとは限りません。例えば地元の自動車ディーラーのショールームで、デモンストレーターとして働くことを希望しているのであれば「専門26業務」に含まれていますので、日雇派遣ができる可能性があります。
他にも「受付・案内」「取引文書作成」なども26業務に含まれています。つまり派遣会社から断られたのは、Aさんとの間で業務内容に関する食い違いが生じているのか、派遣会社の担当者に派遣法に対する誤解があるのか、いずれかである可能性があります。
直接雇用なら「日雇労働」は禁止されていない
また、日雇派遣は原則禁止されていますが、日雇労働(直接雇用)自体は禁止されていません。ですから地元の自動車ディーラーに仕事があるのであれば、直接頼んで短期で雇ってもらう方法も考えられます。すぐにあきらめる必要はないということです。
2012年に改正された労働者派遣法ですが、今年更なる改正をしていく動きが出ているようです。いずれにしても、すべての労働者にとって働きやすい制度にして欲しいと思いますね。
【取材協力弁護士 プロフィール】
岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。頼れる労働トラブル解決なら≪http://www.adire-roudou.jp/≫
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