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「ジャーナリズムは植村さんを見殺しにした」脅迫事件の取材記者が「報道の鈍さ」指摘

2015年01月11日 13:01  弁護士ドットコム

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1991年に韓国人慰安婦の証言を初めて報道した元朝日新聞記者の植村隆氏が1月9日、雑誌の記事で「捏造記者」と書かれたのは名誉毀損だとして、文藝春秋と東京基督教大学の西岡力教授に損害賠償を求める訴訟を起こした。同日の夕方、東京・永田町の参議院議員会館では、支援者による集会が開かれた。


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約250人の参加者からは、植村氏を激励する発言があいついだ。北海道新聞の長谷川綾記者は、植村氏が非常勤講師をつとめる北星学園大学(札幌市)への「脅迫事件」について、「ジャーナリズムは植村さんを見殺しにした」と述べ、新聞やテレビの報道が鈍かったことを指摘した。



●「大学への脅迫を複数の記者が知っていた」


北星学園大学に対しては、昨年3月中旬から抗議の電話やメール、ファックスが殺到するようになった。一連の脅迫事件を取材しているという長谷川記者は、そのときのメディアの動きについて次のように説明した。



「植村さんは通算5、6年、北海道の支局に勤務していたので、知り合いのジャーナリストもたくさんいた。植村さんに対する激しいバッシングや、北星学園大学に脅迫状や脅迫めいた抗議メールが殺到していることを、複数の記者が知っていた」



昨年5月と7月には、「売国奴の植村をやめさせなければ大学を爆破する」という脅迫状も届いている。しかし、長谷川記者によると、新聞やテレビなどのマスメディアは、この問題をすぐには報じなかったという。



「やはり、みんなひるんでいたと思う」。長谷川記者は当時の状況について、こう指摘する。朝日新聞は昨年8月、慰安婦報道の検証記事を出した。植村氏の記事について「事実の捻じ曲げはない」としながらも、「女子挺身隊=慰安婦」という表現が誤っていたと認定していた。



「北星学園大学の記事を書いたら、植村さんの味方をしているということで、自分の会社もバッシングされるんじゃないかと、複数のメディアはひるんだ。私は『これは民主主義の危機だ』と思った」



●「市民が大学を支え、雇用継続を実現させた」


長谷川記者によると、新聞やテレビなどのマスメディアがこの問題を大きく取り上げはじめたのは、大学側が脅迫の経緯と対策を公表した昨年9月30日以降だという。



あいつぐ脅迫から大学を守ろうと立ち上がったのは、「市民」だったという。10月には学者や弁護士、市民による「負けるな北星!の会」が結成された。



しかし10月末、北星学園大学が植村氏の雇用打ち切りを検討していることが、明らかになった。それに対して、市民たちからは、雇用継続と支援を求める声があいついだという。その結果、植村氏の雇用継続を決めた。



そのような経緯を振り返り、長谷川記者は語気を強めて次のように語った。



「ジャーナリズムは、結果として、植村さんを見殺しにしていた。それを変えたのは、まさに市民だった。こんなことでは、民主主義が守れない、自由な言論・学問が守られないという危機感を持った一般の人たちが大学を支え、植村さんの雇用継続を実現させた」



(弁護士ドットコムニュース)