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フォーミュラE第4戦で初優勝。前進の手応えを感じていたアムリン・アグリ

2015年01月11日 10:20  AUTOSPORT web

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フォーミュラE第4戦ブエノスアイレスePrixで優勝を果たし、シャンパンファイトで笑顔を見せるダ・コスタ。後ろは“防護マスク”を身につけるピケJr.
2014~2015年フォーミュラE選手権は、第4戦を迎えた。アルゼンチン・ブエノスアイレスの湾岸地区に設けられた1周2.44kmの公道コースが舞台。1周の距離は短いが、長いメインストレートを持つ公園の中の高速コースだ。そこで行われたブエノスアイレスePrixで、鈴木亜久里が率いる唯一の日本チーム、アムリン・アグリのアントニオ・フェリックス・ダ・コスタが見事な優勝を飾った。ダ・コスタは第2戦プトラジャヤのレースからアムリン・アグリに加わったポルトガル出身のドライバー。もちろん、チーム、ドライバーともにフォーミュラE初優勝だ。

 1ヵ月前のプンタ・デル・エステのレース翌日、同じコースを使って合同テストが行われた。このテストで手応えを掴んだのがアムリン・アグリだった。チーム代表のマーク・プレストンは、ブエノスアイレスで鼻息荒く主張していた。

「テストでメカニカル関係はすべてを見直した。サスペンション、タイヤの空気圧、スプリング……。バッテリーの使い方もドライバーと検討を加え、これ以上何もないと言うぐらいすべてを見直したんだ。その結果、かなり戦闘力が上がった。アントニオ(フェリックス・ダ・コスタ)はそのクルマの進化にかなり満足気で、今回のレースではチーム全員が大いに期待している」

 ただ、そのテストで改善なったのは、アムリン・アグリだけではない。プロスト率いるe.ダムス・ルノーなどは更に先を行く。そのことに関してプレストンは次のように不満を漏らす。

「ルノーやアウディ等のメーカーが支援するチームは資金が豊富だから、様々な改良を施すことが出来る。空力のセットアップなども様々な角度からトライして、理想的な結果を見つけることが出来る。我々もアイデアは沢山あるが、それをやり遂げる資金と時間を見つけ出せない」

 アムリン・アグリに必要なのは自動車メーカーなどの強力な支援だ。

 プレストンの言葉が証明するように、ブエノスアイレスの予選でポールポジションを獲得したのは、e.ダムス・ルノーのセバスチャン・ブエミ。プンタ・デル・エステで勝利したブエミは、ご存じのようにトヨタのWECドライバー。F1でも十分に上位を走ることが出来る実力の持ち主である。タイムは1分09秒134。ブエミは予選アタック第1グループ。最初に記録したタイムが、最後まで破られなかったのだ。

 ドライバーズランキングトップのルーカス・ディ・グラッシ(ダニエル・アプト)は練習走行でブエミに迫っており、予選でも最大のライバルになるはずだった。しかし、第6コーナーでクラッシュ。「クルマのバランスは良かったが、ちょっと滑ったかな」とディ・グラッシ。しかし、クラッシュ前のタイム(1分09秒521)でグリッド5番手を確保した。ブエミの後ろにはハイメ・アルグエルスアリ(ヴァージン)、ニック・ハイドフェルド(ヴェンチュリ)、サム・バード(ヴァージン)、前出のディ・グラッシ、ジャン-エリック・ベルニュ(アンドレッティ)……と続いた。プレストンが進歩を認めるアムリン・アグリのダ・コスタは、8番手グリッドである。

 正午からの予選を終え、決勝レースは午後4時にスタート。35周で争われたが、スタートからゴールまで息をもつかせぬ展開に終始した。スタートからポールポジションのブエミが逃げ、ハイドフェルド、アルグエルスアリ、ディ・グラッシ、バード……らがピタリと後ろについて周回を重ねた。序盤からの大接戦が続いた。ブエミは先頭を逃げるが、その後方10台ほどが、それぞれ1秒以内の間隔でずらりと後ろに並ぶ。壮観なバトルだ。

 しかし、レースが中盤に入ると、クラッシュするクルマが続出しはじめる。ブエノスアイレスのコースは非常にトリッキーで、路面はバンピー。ひとつ間違うとコンクリートブロックに激突するが、カルン・チャンドック(マヒンドラ)を皮切りに、トップを走っていたブエミ、ブエミに代わってトップに立ったディ・グラッシが相次いでクラッシュ。この一連の事故は、今回のレースの激しさを、多くの観客に伝えた。

 一連の騒動が収まった時、トップはハイドフェルド、2位にはダ・コスタが浮上し、その後ろにアルグエルスアリ、ベルニュと続く。しかし、レース残り僅かというところで、ハイドフェルドにドライブスルーペナルティ。ピットレーンの速度違反が原因で、ハイドフェルドは前戦に続いてのペナルティだ。

 これでトップに躍り出たのがアムリン・アグリのダ・コスタ。満を持した、という表現がピタリと合ったトップ奪還劇だった。そして、ダ・コスタに続いたのはニコラス・プロスト(e.ダムス・ルノー)、ネルソン・ピケJr.(チャイナ・レーシング)という、今回のレースでは終盤まで上位に顔を出さなかった面々だった。

 ダ・コスタの初勝利に喜ぶアムリン・アグリのスタッフだが、プレストンは冷静に勝利を分析した。

「今回の勝利はプンタ・デル・エステで行われたテストのおかげだ。そのテストで、我々のクルマは生まれ変わった。それに、ダ・コスタは素晴らしいドライバーだ。クルマに精通しており、冷静なレース運びができ、加えて良いヤツだ! いつかは勝てると信じてやってきたが、思ったより早くその時が来たよ」
(赤井邦彦)