2015年01月07日 13:41 弁護士ドットコム
たくさんの仕事を常に抱えているビジネスパーソンにとって、職場から帰るタイミングを見極めるのは難しいものだ。どれだけ働いても「仕事の終わり」が見えず、結局、終電ギリギリまで会社に残ってしまう人もいるだろう。そんな人に向けて、その日の仕事を「完了」させるコツをまとめた記事が、ニュースサイト「ライフハッカー日本版」に掲載され、反響を呼んだ。
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記事のなかで、筆者のアメリカ在住コンサルタントは、「仕事の完了」には次の4つのタイプがあると指摘している。
(1)エネルギーベース「ヘトヘトになったら帰る」
(2)時間ベース「時計が5時を指したら帰る」
(3)成果ベース「今日のToDoリストがすべて完了したら帰る」
(4)感覚ベース「今日やったことに満足できたら帰る」
この4つをあげたうえで、筆者は、緊急の場合や繁忙期を除いて(1)を避け、積極的に他のスタイルを取るのがよいと言っている。
ただ、(3)や(4)で働きたくても、定時前に帰ることを会社が認めてくれないケースが多いだろう。この記事について、「はてなブックマーク」では、「能率よく時間内に全作業を完了したら、『じゃ、これやってね』と新たに仕事を押しつけられるだけだ」など、日本では無理だろうという意見が目立った。
日本の法律では、自分自身が「今日やるべきことはやった」と判断しても、定時前に帰宅できないのだろうか。自身も会社員時代に長時間労働に悩んだ経験を持ち、労働問題に取組む光永享央弁護士に聞いた。
「現代のホワイトカラー会社員は、複数の案件を同時並行的に抱えており、ITの発達で仕事と私生活の線引きが難しくなっていることは間違いありません。『仕事の完了』を意識して長時間残業を減らそうというのは興味深い提案です」
光永弁護士はこのように述べる。それでは、日本の会社員も、こうした4つのパターンをどんどん使い分けて働いたほうがよいのだろうか。
「それは難しいかもしれません。日本の法律では、(2)『時間ベース』が大原則です。繁忙期であろうが閑散期であろうが、この原則は変わりありません。
雇用契約は所定の時間働くことに対して賃金を受け取るものだからです
(4)『感覚ベース』のように、自分が満足したからといって、定時前に勝手に帰ることも許されません」
日本では、「やることをやったから帰ります」と言うのは難しいようだ。ただ、逆に言えば、「時間通り働いたので帰ります」とは言えるわけだ。それなのに、なぜ日本では長時間労働が問題となっているのだろう。
「たしかに、多くのビジネスマンは、(3)『成果ベース』や(1)『エネルギーベース』で長時間労働を余儀なくされているのが、実情ではないでしょうか。かくいう私も、サラリーマン時代そうでした」
なぜ、そういった実情になっているのだろうか。
「私が考える、その主な原因は『サービス残業』です。
労働基準法では、従業員に時間外労働を行わせた場合、会社にペナルティとして割増賃金を支払わせることで長時間労働を抑制する仕組みになっています。
しかし、残業させても会社が対価を払わない場合、この『長時間労働抑制装置』が作動しません。
過労死・過労自殺を出した職場で、残業代を適正に払っていた例を聞いたことがないのは、まさに同じ理由です」
こう述べたうえで、光永弁護士は「そもそも、雇用契約上、従業員の労働時間や業務量をコントロールする義務は会社にあります。変えるべきは、労働者個人の意識ではなく、企業側の姿勢でしょう」と指摘していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
光永 享央(みつなが・たかひろ)弁護士
一橋大学社会学部卒。2007年弁護士登録(旧60期)。福岡県弁護士会所属。労働者側専門の弁護士として過労死事件や労働事件を数多く手がけ、新卒学生の採用「内々定」取消しの違法性を認める画期的判決も獲得している。
事務所名:光永法律事務所
事務所URL:http://www.mitsunaga-roudou.jp/