2015年01月04日 15:51 弁護士ドットコム
株主優待制度を導入する企業が増えている。株式を長期保有してもらい、安定株主を増加させることが狙いだ。毎日新聞の報道によると、今秋には上場企業の株主優待制度の実施率が3割を超え、過去最高を更新した。
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優待内容は企業によってさまざまだ。たとえばANAホールディングスでは、1000株以上所有している株主は国内線を普通運賃の50%引きで利用できる。日本マクドナルドホールディングスは食事優待券、日清食品ホールディングスは自社製品の詰め合わせを提供している。
ただ、こうした株主優待のほとんどは、「一定数以上の株式」を持っている株主が対象だ。このように一部の株主を特別扱いすることに問題はないのだろうか。企業法務にくわしい鈴木謙吾弁護士に聞いた。
「株主優待制度は多くの企業で利用されていますが、法的には、会社法の根本原則である『株主平等原則』に反しないかという問題点が指摘されています」
鈴木弁護士はこのように語る。「株主平等原則」とは何だろう。
「定義は多岐に渡りますが、今回のテーマに関連するのは、『同じ内容の株式を有する株主については、株主の個性ではなく、株式数のみに着目した取り扱いをしなければならない』という点です」
株式平等原則との関係で、問題になるのはどんな点か。
「たとえば、『1000株以上の株式を有している株主に●●を与える』という株主優待制度の場合には、999株を所有している株主との間で著しい差が生じてしまいます。
判例や学説など、法的な考え方は錯綜していますが、大まかな結論としては、一定の合理性を有していれば有効であると考えられています」
どんな場合に、「一定の合理性」があると言えるのだろうか。
「合理性を担保する一つの要件として、『それほど高額な物を渡してはならない』という考え方が一般的と言ってよいでしょう」
ほかにも、株主優待をめぐる論点があるという。
「株主への『利益供与』に当たるのではないかという問題点も、指摘されています。株主への利益供与は、株主の権利行使をゆがめる危険があるので、会社法で禁止されています」
株主優待制度は「利益供与」にあたるのだろうか。
「この点も、社会相当性の範囲内であれば有効と考えられているようです。逆に言えば、極端に高額であるなど、社会相当性を逸脱している場合には許されないでしょう。
このように一般に広まっている株主優待制度ですが、法的に厳密な検討をしていくと、大きな問題になりかねない制度であることは覚えておいてほしいです」
鈴木弁護士はこのように締めくくった。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
鈴木 謙吾(すずき・けんご)弁護士
慶應義塾大学法科大学院教員。東京弁護士会所属。
事務所名:鈴木謙吾法律事務所
事務所URL:http://www.kengosuzuki.com