トップへ

改めて問われるF1の本質。伝説のデザイナー、マーレイの言葉

2014年12月31日 16:10  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

ドライバーのパフォーマンスと最先端のテクノロジーが魅力のF1。近年はテクノロジーにたよった優劣の差が顕著になっている
F1ファンの人気をかき立てるのはマシンではなくドライバーである。今年の英オートスポーツ・アワードは、このことを改めてF1ジャーナリストのジョナサン・ノーブルに思い起こさせるものだった。

 12月7日、グロブナーハウス(ホテル)の階段を降り、オートスポーツ・アワードの受賞会場に入る2014年のワールドチャンピオン、ルイス・ハミルトンを迎える拍手は、F1の真のヒーローの本質がどうあるべきかを象徴していた。

 テクノロジーがF1の中心に移り、メーカーがハイブリッド関連および燃料効率の新レギュレーションに没頭することになった今年、彼らでさえそれを受け入れなければならないという単純な事実があった。それは、F1の主役がマシンではなく、ドライバーにあるということだ。

 この夜、(技術的功績を称える)ジョン・ボルスター賞を受賞した伝説のF1デザイナー、ゴードン・マーレイが現代のグランプリレースに関する考えを語ったとき、人間とテクノロジーという複雑な関係に改めて焦点が集まることになった。

 マーレイは、ブラバムBT44でF1初勝利を記録してから40年が経過した今も、彼をそもそもF1に引き寄せた情熱、卓越したエンジニアリング、革新、魅力的なテクノロジーで自らを燃え立たせている。

 しかし今、彼の焦点はデザインにおいてコンマ数秒を削ることではなく、世界を変える可能性があるiStreamという製造工程にあり、うまくいけば乗用車市場を再定義することになるだろう。

「本当のところ、最初に辞めた時はF1が恋しかった。しかし、今我々がやっていることはもっとエキサイティングだ」と、彼は軽量かつ低エネルギーのプロジェクトについて語った。
「F1が始まって以来、我々は一般ドライバー用のメカニズムにF1のテクノロジーを利用してきたし、それはF1を全く新しいステージに導いている。それが我々の生活を変え続けるだろうし、グランプリ初勝利やチャンピオンシップ初制覇よりももっとエキサイティングだ」

 マーレイはF1への愛情を失っていない。「心はまだレーサーだ。いつか彼らとレースをやりたい!」。ただ、彼にとってそれほど魅力的とは言えない側面もある。

「これは私が昔の考え方だからだが、F1は常に真のドライバーズ選手権だった。コンストラクターズタイトルを獲得するのはうれしいことだが、これはドライバーのための選手権だ。我々はそれを忘れてはならない」
「観客はドライバーを応援するがチームとなるとそれほどでもない。私は、誤った規則や人工的な規則、特に燃料消費や燃料使用に基づくものが導入されるとすぐに考えるんだ。ファンの応援を少しづつ失い始めるんじゃないかってね」
「私は、我々がF1レースをする全ての理由を失わないように、少し慎重にならなければならないと思っている」

 それでもマーレイは、特定の規則だけを気に入らないわけではない。普通に受け入れられている規則やエンジニアリングも疑問視されるべきだと言う。
「私が最初に禁止するとしたら、それはテレメトリーだ。これはおかしいよ」とマーレイ。「子どもの頃は、自分自身でレースをしていたものだ。エンジンやギヤボックス、タイヤについて自ら考えなけれならなかったが、今は何をするべきかを指示されている」

 彼は、チームが大きくなり過ぎたことによる弊害を、エンジニアリングの現場が不満に感じていることも理解している。

「F1は、エンジニアが分類されるくらい大きなビジネスになってしまった」
「私は、フロントサスペンションの部門に8年間いた若者を知っているが、おそらく彼らはマシン全体のデザインの意図を理解できないだろう」

「それが今日のこの世界だ。時計の針を戻すことはできない。例えば、7人で作業をしていたブラバムの時に比べると満足感を得られにくいが、すべてを皆が理解していた」
「我々は本当のチームだったし、真のファミリーだった。それが少し失われてしまったんだ」

 確かに、世界は動いており、わずか1ダース足らずのスタッフで現代のF1マシンをデザインして走らせることは現実的ではない。しかし、同時に我々は、テクノロジーがドライバーの勘と経験に頼るエリアまで侵食し始める臨界点にいる。だから、無線を制限することにもなった。
 もちろんテクノロジーは魅力的だ。それにF1は常に最速で、最も技術的に先進なレーシングカーを走らせるものでなければならない。

 だが、この技術的な功績が最も優れたドライバーを犠牲にしてまで、いかに素晴らしいかを示すようであっては決してならない。私は、ゴードン・マーレイとルイス・ハミルトンがこのことに同意すると確信している。