2014年12月28日 11:01 弁護士ドットコム
職場の近くに住んでほしい——。弁護士ドットコムの法律相談コーナーに、勤め先からこんな風に言われて困っているという男性の相談が寄せられた。
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男性は大学の教員で、自宅から大学まで新幹線で1時間半、在来線で2時間半ほどかかる。通勤時間が長いのだが、「なるべく今の自宅から通勤したい」と考えているそうだ。
ところが、大学側は、大学の近くに住んで、そこに住民票を移すように求めているという。とくに理由の説明はなく、「最近採用した人には、皆そうしてもらうことになっている」と言われたそうだ。
このような場合、勤務先の要請にしたがって、引っ越す必要があるのだろうか。労働問題にくわしい高木由美子弁護士に聞いた。
「引っ越しを強制するのは、従業員の『居住移転の自由』を侵害する行為です。
居住移転の自由は、憲法で保障されています。私企業や私的団体であっても、憲法で保障されている権利を侵害するような行為は、原則として認められません。今回の相談者も原則として、勤務先からの引越命令を拒否することが可能です。
しかし、勤務先の近くに引越さなければ、従業員が業務を遂行する上で支障があるような場合は、話が別です。
勤務先の引越命令は『正当な理由がある』として合法となり得ます。そうしたケースなら、従業員が引っ越し命令に応じる必要が出てきます」
そうなると、業務上「正当な理由」があるかどうかが問題となりそうだ。男性は「皆そうしてもらうことになっている」と説明をうけたようだが、これは正当な理由と言えるだろうか。
「『皆そうしてもらうことになっている』といったあいまいな理由は、正当な理由には該当しません。この引越命令は拒否できる可能性が高いでしょう」
ただ、男性の場合、かなり通勤費がかかりそうだ。自己の都合で遠距離通勤を選んだ場合、その費用は払ってもらえるのだろうか。
「労働基準法は、勤務先が従業員の通勤交通費を負担することを義務づけてはいません。つまり、通勤費が支払われるかどうかは、会社のルールしだいです。
もし通勤費について『勤務先が負担する』というルールがある場合は支払ってもらえますが、勤務先にそうしたルールがなければ、自腹を切る必要がありますので、注意してください」
新幹線で1時間半だと、通勤費用は相当高額になる。勤務先が「引っ越して」という背景には、そのような事情もあるのかもしれない。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
高木 由美子(たかぎ・ゆみこ)弁護士
第一東京弁護士会所属。米国・カリフォルニア州弁護士
事務所名:さつき法律事務所
事務所URL:http://www.satsukilaw.com/