2014年12月28日 08:51 弁護士ドットコム
「宇宙戦艦ヤマトが地球から発進するための工事費用はしめて1207億円」——。準大手ゼネコンの前田建設工業は2003年以降、建設業のPR活動「ファンタジー営業部」でこんなユニークな見積もりを発表している。アニメなどに出てくる架空の「巨大建造物」の設計・見積もり業務を受注したと設定。用いる工法などを吟味して費用や工期をはじき出し、ウェブサイトで公開している。
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プロジェクトが進む過程を真面目に、でも遊び心は忘れずに楽しく紹介することで、建設事業の魅力を広く理解してもらおうとの狙いだ。異彩を放つ同社のPR活動はスタートから10年を超えた。ファンタジー営業部が登場する講演会が満員になるなど、建設業界に縁遠かった人たちの関心を着実に引き付けている。(取材・構成/藤原秀行)
ファンタジー営業部が最初に手掛けた案件が、巨大ロボット「マジンガーZ」の地下格納庫の見積もりだ。2003年に「工期6年5カ月、予算72億円で工事を引き受けます!」と発表、注目される契機となった。
他にも、「銀河鉄道999」に出てくる銀河超特急の発着用高架橋一式は工期3年3カ月で予算37億円と計算。「機動戦士ガンダム」で、地球連邦軍がアマゾンの地下に建造した基地ジャブローは、ジャングルの環境保護に配慮しつつ、「工期272年、予算2532億円で本当に建設を請け負います!」と明言した。
それぞれのプロジェクトごとに、見積もりの結果だけでなく、担当者による侃々諤々の議論内容も公開。「ヤマト建造に必要な最小限の空間はどうなる?」「ヤマトの前半分は掘る必要ないんじゃないか」といった会話は、当人たちがいたって大真面目に取り組んでいることをうかがわせて、笑いを誘う。
見積もりの経緯と成果をまとめた本が出版されて賞を獲得したり、ファンタジー営業部が見積もりに取り組む場面が舞台になったりと好評を博してきた。ファンタジー営業部の立ち上げに参加した一人、同社の岩坂照之広報グループ長は「建設業に関心がない人たちに我々の業界の魅力を知っていただくためには、今までにないことをやらなければ駄目だと考えた。つてのなかったアニメーション制作会社に飛び込んで協力をお願いするなど、数年かけて実現にこぎつけた」と振り返る。
従来の独自見積もりに加え、数年前からは他の業界の企業と組んだPR活動にも力を入れている。たとえば、2011年には、ドミノ・ピザが話題作りのために打ち出した「月面出店構想」に協力、店舗の建設費や資材を月に運ぶコストなどをひっくるめて事業費は1兆6700億円(土地代は除く)とそろばんをはじいた。
2012年には創業50周年を迎えた東武百貨店の依頼を受け、自動車デザイン会社のフィアロコーポレーション(埼玉県新座市)やアパレルメーカーのオンワード商事とコラボして、50年後の「未来の百貨店」の姿を提案した。商品を運ぶトレーラーに肝心の売り場機能も搭載し、時間や場所、利用客の好みに合わせて自由に売り場のレイアウトや商品を変えられるようにするなど、斬新なアイデアを世に出した。2013年にはファンタジー営業部の名義で、雑誌に建設事業を題材にした小説も投稿した。
さらに2014年は、米国の田舎町がある日突然、巨大な透明のドームに覆われてしまうというスティーヴン・キング原作のテレビドラマのプロモーションに協力。ファンタジー営業部のメンバーが座談会で、ドラマの内容にちなみ、このドームを使ってどんな建築物を造るかといったテーマでアイデアを出し合った。
ファンタジー営業部を見て前田建設の自由な社風を感じ取り、入社を希望する若い人もいるという。2015年には新たに映画やイベントとコラボするプランが進行中だ。「これまで登場していない業界とも積極的に手を組みたい。たとえば、物流業界の皆さんと建設現場の物流をどう進化させるか議論して、その成果を発表することにも機会があればチャレンジしてみたい」と意欲を示す岩坂氏。従来の常識にとらわれない柔軟な発想と行動に、これからも期待できそうだ。
(2003年)「マジンガーZ」格納庫 事業費:72億円
(2004年)「銀河鉄道999」地球発進用高架橋 事業費:37億円
(2005年)PS2「グランツーリスモ4」サーキット 事業費:221億円
(2006年)「世界初!ロボット救助隊を創ろう」 事業費361億円
(2010年)「機動戦士ガンダム」ジャブロー基地 事業費:2532億円
(2011年)「サンダーバード」秘密基地 ※協和発酵キリンと連携 事業費:4496億円
(2011年)「ドミノ・ピザ」月面店舗 ※ドミノ・ピザと連携 事業費:1兆6700億円
(2012年)「宇宙戦艦ヤマト2199」発進準備工事 事業費:1207億円
(弁護士ドットコムニュース)