安倍首相は衆院選後の12月16日に開かれた第4回の政労使会議で、経済界に対し再度の「賃上げ要請」を行った。政府が賃上げを要請することは異例だが、安倍首相は昨年から再三再四の要請を行っている。
折からの円安・株高で、輸出型の大企業は収益を出しやすい環境に変わっている。安倍首相は会議の冒頭で、来春の賃上げについて「最大限の努力を要請する」とした。
賃上げには「下請代金の改善」が必要
大企業が賃上げとともに、下請けの中小企業にも利益を還元すれば、中小企業にも賃上げの流れが波及するのではとの目論見があるようだ。そのため首相は、円安などで高収益の企業には「下請け企業に支払う価格についても配慮を求めたい」とし、
「賃上げの流れを来年、再来年と続けていき、全国津々浦々にアベノミクスの効果を浸透させる」
と発言している。会議後に発表された政労使の合意文書にも、賃上げによって「継続的な好循環」を確立していくことが第一に挙げられた。企業収益の拡大を「来春の賃上げ」や「設備投資」に結びつければ、消費が拡大しさらなる賃上げを呼ぶ好循環が継続するという。
しかし大企業は労働組合も強く景気回復の効果を受けやすい一方、日本の雇用者の66.0%が働く中小企業に効果が波及するかどうか懸念する声もある。
ジャーナリストの田中龍作氏は、この賃上げ努力が報われても「恩恵を授かるのはほんの一部の大企業と連合傘下の労働組合員だけ」だと批判。東京新聞も16日の夕刊でこの賃上げ要請には「アベノミクスの効果を示すため、なりふりかまわず賃上げムードを演出しようとする政権の姿勢」が現れていると揶揄している。
自工会会長も「還元していく」と発言
中小企業団体中央会の鶴田欣也会長も、同会議でこう要請している。
「中小企業の賃上げに向けてまだ足らざることの一つは、下請代金の改善である。仕入単価の上昇に伴う適正な価格転稼など、取引環境の整備を更に強化していただきたい」
このような要望を受けて、今回の合意文書には「大企業の社員の賃上げ」だけで独占するのではなく、アベノミクスの恩恵を中小企業にも振り分けよという文言が含まれている。
「政府の環境整備の取組の下、経済界は、賃金の引き上げに向けた最大限の努力を図るとともに、取引企業の仕入れ価格の上昇等を踏まえた価格転稼や支援・協力について総合的に取り組むものとする」
これを受け、大手自動車メーカーを会員とする日本自動車工業会の池史彦会長は18日の定例会見で、
「物凄い勢いの円安になり、水膨れした利益があるので還元していく」
と述べ、アベノミクスによる「水脹れの利益」を、賃金や、取引企業の価格などに反映していく考えを示している。
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