メルセデスAMGの強さばかりが目立った2014年シーズン。全19戦中16勝(年間勝利数の新記録/ちなみに年間輩出ウイナー最小記録タイ・3人)18ポール(年間ポールポジション獲得数新記録)と、F1史上最大とも言える圧勝劇でした。開幕戦当時、今季のメルセデスAMGがこれほどまでの速さ・強さをシーズンを通して見せると、想像できたでしょうか?
この原稿では、各マシンのパフォーマンスを数値化。最も速かったマシンを100とし、数字が増えるほど遅いということを示しています。この計算式にあてはめてみると、19戦中17戦でメルセデスが100と、最速マシンであったことが分かります。パフォーマンス面で他車に先行を許したのは、第6戦モナコと、最終戦アブダビのみ。ライバルたちは、手も足も出なかったということが、計算でも明らかになりました。
開幕戦オーストラリアGP決勝、メルセデスAMGのニコ・ロズベルグは後続に24秒以上の差をつけて圧勝しましたが、信頼性の問題(ルイス・ハミルトンはマシントラブルでリタイア)を始めとして、付け入る隙は多くあるように見えました。パフォーマンスを数値化してみても、メルセデスAMGの100に対して、ケビン・マグヌッセン2位+ジェンソン・バトン3位のマクラーレンは0.04、バルテリ・ボッタスが速さを見せたウイリアムズが0.15、ダニエル・リカルドを2位入線(結局失格)させたレッドブルが0.28と、それぞれごく僅かの遅れでした。
しかし次戦以降、メルセデスAMGとライバルたちの差は徐々に開いきます。メルセデスAMGが計算上での“最速マシン”の座を逃したモナコGPは、フェラーリのキミ・ライコネンがレース終盤に4周だけ飛ばしに飛ばし、ファステストタイムを記録したから。実質的には、ここもメルセデスAMGが最速だったはずです。
シーズン序盤、2番目に速かったのはレッドブルでした。第2戦マレーシアと第3戦バーレーンはメルセデスAMGの独壇場で、ライバルを1%程度(1%と侮るなかれ。この差は、例えば鈴鹿の予選で約1秒差を付けるというほど、大きな差なのです)引き離していましたが、第4戦目以降はレッドブルのパフォーマンスが向上。メルセデスAMGに急接近することになります。結果、第7戦カナダでリカルドが初優勝。メルセデスAMGに対して一矢報いました。
ただこのレース、リカルドが優勝したとはいえ、パフォーマンスはメルセデスAMGの方が上。しかも、決勝レースで運動エネルギー回生システムにトラブルが発生していたにもかかわらず……だったのです。今季初めて勝利を失ったものの、“メルセデスAMG、負けてなお強し”の印象を強くしたレースでもありました。
初めて土が付いた第7戦以降、メルセデスAMGは開発をより一段階進めたのか、後続との差を再び広げ始めます。そんな中で唯一食らいついていったのが、ウイリアムズの2台、ボッタスとフェリペ・マッサでした。8戦以降ほとんどのレースで、ウイリアムズは全体で2番目の戦闘力を発揮。ポイントを荒稼ぎすることになります。夏前後に一度失速するものの、再び後半にかけて急激な伸びを記録。第16戦ロシアでは、メルセデスAMGにあと1歩のところまで迫り、最終戦アブダビではついに戦闘力トップの座を奪いました。
ウイリアムズは昨年大苦戦し、なんとランキング9位。今季は開発が成功して、ランキング3位に大躍進しました。しかし、本来ならば3位ではなく、2位にならなければならないチームだったのではないかと思われます。シーズン序盤はメルセデスAMGから大きな遅れをとっていましたが、これは雨に祟られたり(今季のウイリアムズFW36は、総じてウエット路面に弱かった)、戦略に失敗したため。実質的には、ウイリアムズは年間を通じて速かったのです。
レッドブルが勝利した3戦のうち、カナダGPとベルギーGPは、ウイリアムズにも十分勝機がありました。それでも勝てなかったのは、近年毎年のようにチャンピオン争いを経験してきたチームと、長年チャンピオン争いから遠ざかっていたチーム(2012年のスペインGPで優勝してはいるが……)との差が出たということでしょうか? いずれにしても、アクシデントに巻き込まれたり、戦略がうまくいかなかったりと、今季のウイリアムズは速さを見せるが、取りこぼしが多いという印象でした。
フェラーリは、モナコとシンガポールという市街地2戦でトップレベルのパフォーマンスを見せましたが、その他のサーキットでは、シーズンが終盤になるにつれて徐々にそのパフォーマンスを落としていきます。第8戦~10戦は一時戦闘力の向上が見られましたが、特にブラジル、アブダビの2戦は、トロロッソやフォース・インディアにも劣るというもの。戦略云々という次元ではなく、とにかくパフォーマンスが上がらないという印象でした。
結局2014年のフェラーリは未勝利。1993年以来、なんと21年ぶりの大不振のシーズンとなってしまいました。しかも、チーム代表がステファノ・ドメニカリ→マルコ・マティアッチ→シーズン終了後にはマウリツィオ・アリバベーネへとなんと2回も交代。フェラーリお得意の“お家騒動”が勃発したようです。スクーデリア・フェラーリは来季復活するのか? それとも低迷期を迎えてしまうのか? 期待と不安が入り交じった、複雑な状況です。
シーズン後半に戦闘力を増したのが、マクラーレンでした。第11戦ハンガリーGPでは、計算上のマシンパフォーマンスがトップのメルセデスAMGから2.57%と大きく遅れていたマクラーレン。本来ならばそこで今シーズンの開発を諦め、来季用マシンの開発にシフトしてもおかしくはないのですが……そこからシーズン最終戦まで開発を継続し、最終的には全体で4番手チームになりました。しかも、来季用のパーツを続々と先行投入&実戦テストしており、その効果が出ていたことを見ると……来季のマクラーレンは期待してもいいのかも知れません。あとは、ホンダ製パワーユニットの出来次第です。
フォース・インディアは、シーズンを通じて1.8%程度の遅れで推移しました。数値場はライバルに遅れをとっていたものの、彼らは戦略とロングランのペースに秀でていて、着実にポイントを獲得。マクラーレンとの差はわずか26ポイントでした。本来ならば入賞すらかなり厳しいポジションに位置していましたが、無得点に終わったのは僅か2戦のみ。老舗チーム(元ジョーダン)の能力と経験を、いかんなく発揮した成績と言えると思います。
セルジオ・ペレスも頑張りましたが、特にニコ・ヒュルケンベルグの活躍が目立ちました。一発の速さよりも、着実に周回を積み重ね、戦略で前に出る……ということを遂行し、ランキング9位。彼は来季、F1への挑戦を継続すると同時に、ポルシェからWEC(世界耐久選手権/ル・マン24時間とスパ6時間のみ参戦予定)に挑戦します。ロングランの強さから想像するに、WECでのヒュルケンベルグは、大いに期待できそうです。
トロロッソも終盤に向けて戦闘力を上げたチームです。特に最終戦アブダビGPでは、上から4番目の戦闘力を発揮しました。しかし無得点。結局今季の獲得ポイントは合計30点、コンストラクターズランキングは選手権はに終わっています。
トロロッソは年間を通して、フォース・インディアと同等かそれ以上のパフォーマンスを発揮していました。しかし、フォース・インディアの獲得ポイント155点に比べると、あまりにも大きな差が生まれてしまっています。フォース・インディアはレース向きのマシンで、トロロッソは予選向きのマシンだったということが言えるかもしれませんが、それにしてもここまでの差ということは……ダニール・クビアトとジャン-エリック・ベルニュは、取りこぼしがあまりにも多かったように感じてしまいます。
ロータスは、浮上できずにシーズンを終えてしまうことになりました。開幕戦ではトップからの差約4%と、能力的に非常に劣っていたロータス。最終的には2%程度の遅れまで挽回してきたとはいえ、常に下から3番目もしくは4番目の戦闘力でした。そんな状況下でも10ポイントを獲得しているところに、昨年まで優勝争いに加わっていたチームの底力を感じます。
ザウバーもロータスと同じような能力のマシンでしたが、こちらの獲得ポイントは0。新興チームのマルシャにも及ばず、ランキング10位に終わっています。ザウバーは1993年のチーム創設以来、初の獲得ポイント0。コンストラクターズランキングも、チーム史上最低の成績となってしまいました。
マルシャは常に4%遅れ近辺で推移しました。しかし、モナコGPだけはトップからの遅れ3%。このレースで、ジュール・ビアンキがチーム及び自身初の入賞を果たしています。まさに唯一のチャンスを、しっかりと活かし切ったという印象。ランキング9位でシーズンを終えましたが、後半3戦は資金難のため欠場。結局、チームは競売にかけられることになってしまいました。
同じく資金難に苦しんだ、小林可夢偉が所属するケータハムは、シーズン序盤から中盤にかけてはマルシャにも及びませんでした。しかし、マシンがアップデートされたベルギーGP以降は徐々にパフォーマンスを上げ、トップから3.5%遅れまで挽回。マルシャよりも高いパフォーマンスを発揮しています。しかし、結局ケータハムは無得点、入賞のチャンスもほとんどなく、ランキング最下位で終わっています。
メルセデスAMGの圧勝に終わった2014年シーズン。その最大の要因が、パワーユニットの完成度の差にあったのは言うまでもありません。パワーユニットは、ホモロゲーション(凍結)規則が適応されているために開発が制限されますが、それでも来季に向けては改善できる部分が多くあると言います。その修正により、ルノーおよびフェラーリ製パワーユニットのユーザーがどこまで進化してくるかが、来季の見どころになるでしょう。当然、新たにF1に加わるホンダの活躍も見逃せません。
もちろん、メルセデスAMGが強かったのは、空力的にも非常に優れていたから。この点でも、ライバル勢がどのように巻き返してくるか、注目したいところです。
年が明け、あと1ヵ月もすれば、続々とニューマシンが発表されるはずです。そして、2月から行われる合同テストで、その勢力図が徐々に明らかになってくるでしょう。2015年がどんなシーズンになるのか、今から実に楽しみです。来シーズンに向けた最初のテストは、2月1日からヘレス・サーキットで行われます。
(F1速報)