2014年12月20日 14:31 弁護士ドットコム
ネット企業で働く男性社員の「長期育休」エピソードが反響を呼んでいる。ソーシャルゲーム大手「GREE」の男性エンジニアが、育児休暇を半年間にわたって取得したときの出来事をブログで紹介したところ、その内容が「素晴らしい!」と賞賛を集めたのだ。
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ブログでは、男性が育休を取得した経緯や育休中の生活がつづられている。会社が育休の取得を快く受け入れたため、男性は妻とともに半年間、育児に奮闘。仕事に復帰した後も、モチベーションを高く保ったまま働けているそうだ。
このエピソードは「はてなブックマーク」で話題となり、「いい話だ!」と多くの賛辞が寄せられている。一方で、「こういうことが当たり前にできる社会にする事こそが少子化対策になるんだろうなあ」「(こうして育休を取得できるのは)大企業にいる人だけなんじゃないかな」と、今回の事例を特別視する意見もあった。
厚労省の調査によると、昨年度の男性の日本の育休の取得率は2%。たしかに、今回のようなエピソードは、日本では「特別」なのかもしれない。男性の育休取得の法的な位置づけはどうなっているのだろうか。男性の育休を「当たり前」にするには、どんな対策が求められているのだろうか。労働問題にくわしい中村新弁護士に聞いた。
「男性の育休取得率は低いのですが、そもそも、育児・介護休業法は、育児休業を取得する権利を男女双方に認めています」
つまり、法律は、男女平等に、育休を取得することを前提としているということか。
「男性であっても、子が1歳に達するまでの間、育児休業を取得する権利が認められています。また、保育所に入所できないなど、子が1歳を超えても休業が必要と認められる一定の場合には、1歳6か月に達するまでの間、取得できます」
もし、会社に育児休業の制度がない場合は、どうだろう。
「育児休業は、法律に基づき取得できる権利です。社内制度の有無にかかわらず、休業開始予定日の1か月前までに書面で申し出れば、原則として、育児休業を取得することが可能です。契約社員なども、一定の要件を充たせば、育児休業を取得できます」
長期間、育休を取るとなると給与が出ず、生活費の工面が心配だという男性が多い。
「たしかに、育児休業中、使用者は給与を支払う義務を負わないので、多くの場合、給与は出ません。しかし、雇用保険の被保険者であれば、原則として育児休業給付金を受給できますし、期間中は社会保険の保険料支払いも免除されます」
取得率アップに向けて、国は何か工夫をしているのだろうか。
「かつて育児休業が認められたのは、子の誕生から1歳に達するまでの間でしたが、2010年の育児・介護休業法改正により、父母がともに育休を取る場合、1歳2か月に達するまでの間、取得できるようになりました(取得できる期間は最長1年間)。
さらに、かつては労使協定を締結すれば、配偶者が専業主婦(主夫)の場合、育児休業の適用除外にできる規定がありましたが、2010年の法改正によって、この規定が削除されました。使用者は、配偶者が専業主婦(主夫)の場合も、育児休業の取得を拒否できないことになったのです」
取得しやすい制度に変わっているようだが、給付金の額も変わったのだろうか。
「かつて育児休業給付金の額は、休業開始前の賃金の50パーセントでしたが、2014年4月1日以降に始まる育児休業については、休業開始から180日間は67%に引き上げられています」
制度は充実してきたようだが、男性の育休取得者を増やすためには、何が求められるのだろうか。
「まず、労働者側は、育休取得の可能性があると考えたら、使用者側の都合も考慮して、早めに上司に育休取得について相談することです。
使用者側も相談を受けたら、育休取得を認めることを前提に、早めに仕事のシフトを見直すよう心がけるなど、労使双方の意識を高める必要があるでしょうね。
男女含めて有用な人材が、最低限のワークライフバランスを取りながら能力を発揮するためには、育休の付与が必要とされてきているということを、使用者側も強く意識せざるを得ない時代になっているのではないでしょうか」
子どものためにも、男性の育休取得率が女性並みになり、父親が育児に深くかかわることのできる社会になってほしい。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
中村 新(なかむら・あらた)弁護士
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、東京労働局あっせん委員。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている
事務所名:中村新法律事務所
事務所URL:http://nakamura-law.net/