読売新聞は12月14日付けで、政府が現在の「配偶者控除」を見直し、新たに「夫婦控除」の導入を検討していると報じている。これがヤフーニュースに配信され、1400以上のツイートで言及されて話題となっている。
現行の「配偶者控除」は妻(配偶者)の年収が103万円以下なら、夫(納税者)の所得から38万円、住民税は33万円が差し引かれ、納税額が減る仕組みになっている。この制度を理由に、女性は働く時間を控えるケースも多かった。しかしこれを撤廃することで、女性の社会進出を促そうという狙いがあるようだ。
「片働きでは子どもを産み育てる余裕がない」世帯を想定
2014年11月に税制調査会が出した「個人所得課税改革」に関するレポートでは、配偶者控除の見直しに向けての論点整理がなされている。そこでは新しい「夫婦控除」について、次のような内容で提案されている。
「新たな控除は配偶者の収入にかかわらず適用されることとし、働き方の選択に対して中立的な税制とする」
つまり夫婦であれば、配偶者がいくら稼いでも、一定の控除が受けられる制度が検討されているということだ。ただし、現状ではどのくらいの額が控除されるかなど、具体的な案までは提示されていない。
そもそも配偶者控除は、終身雇用の男性と無職の妻からなる「片働き世帯」をモデルとして1960年代に生まれた制度だ。高度経済成長と人口増を支えるため、配偶者の「税負担能力の有無」を考慮し、年収103万円以下の妻に対して減税するというもくろみがあった。
しかし婚姻件数の減少と少子高齢化が進み、女性のライフスタイルが多様化した。「共働き世帯」も増加しており、同レポートでは従来の夫婦モデルで立ち行かなくなっているケースの増加について言及している。
「若い世代においても非正規雇用の比重が高まり、所得の低い層を中心に、経済的な理由で結婚できない、結婚しても片働きでは十分な世帯収入が維持できない、子どもを産み育てる余裕がないといった状況が生じている」
共働き世帯から「こっちのほうがいいよね」と歓迎の声
このような議論に対し、ネット上では「配偶者控除撤廃」に反応する声が少なくない。数多くの世帯が恩恵を受けている「税優遇」を見直すということは、結果的に女性の社会進出によい影響がないというわけだ。
「カツカツの家庭は本当に苦しくなる」
「実態は大幅増税です」
「若者が益々結婚しなくなるのでは」
と嘆く声も。「選挙後にこういうの出してくるって酷い」というのは誤解だが、与党が選挙戦であえて強く打ち出していなかったのは確かだ。
一方で、妻に103万円以上の所得があるなど、これまで配偶者控除が受けられなかった共働き世帯からは歓迎の声もある。
「セットで導入されるはずの夫婦控除が、実際にどういう制度になるのかを監視するのが、僕ら庶民の役割だと思います」
「配偶者控除よりこっちのほうがいいよね。気になるのは妻の収入の方が多い場合は妻の収入から控除されるのだろうか?」
ちなみに現行では、妻の収入のほうが多ければ、夫が妻の扶養に入り年収103万円以下であれば、配偶者控除が受けられる。夫婦控除の詳細は明らかになっていないが、妻の収入が多い場合は、夫が妻の扶養に入れば、妻の収入から控除されるということになるだろう。
今後は「結婚せず子育てを行う世帯」への配慮も検討
ただし、仮に夫婦控除が導入され「103万円の壁」が撤廃されても、配偶者の年収が130万円を超えると、今度は「社会保険料控除」が受けられなくなる。これを問題にしている声もあり、女性の社会参加を本当に実現するには社会制度の抜本的な見直しが必要なようだ。
このほか、同レポートは以下のような論点を提示している。これらは今後の税制調査会で引き続き検討されるようだ。
・高所得の夫婦世帯にまで、新たな控除を適用する必要はないのではないか
・税制が結婚に対し中立的でなくなるため、その是非について十分な議論が必要なのではないか
・結婚や子育てに対する配慮については、他の施策を組み合わせて、税制面においてどの程度行うことが適当か、検討する必要があるのではないか
・「夫婦を形成せずに子育てを行っている世帯」に対する配慮についてはどう考えるか
・子育て支援の拡充については、所得再分配の観点から低所得世帯を中心に考えるべきではないのか
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