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2015年へ改良進むスーパーフォーミュラエンジン。琢磨ならではのテストへの貢献も

2014年12月16日 16:40  AUTOSPORT web

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スーパーフォーミュラ岡山テストでホンダテストカーをドライブした佐藤琢磨
12月10日~11日に、岡山国際サーキットで行われた全日本選手権スーパーフォーミュラのルーキーテスト/エンジンメーカーテスト。小林可夢偉(KYGNUS SUNOCO LeMans)のトップタイムやヤン・マルデンボロ(LENOVO TEAM IMPUL)の好走で大いに話題となったが、トヨタ、ホンダの2メーカーのエンジン開発車も、興味深いテストを行っていたようだ。

 岡山のテストでは、レギュラー参戦するチームは2014年シリーズに参加していたドライバーは走らせることはできず、過去に参戦経験があったドライバーやルーキーのみが参加できたが、トヨタが持ち込んだ00号車、ホンダが持ち込んだ05号車はそれぞれルーキー以外のドライブも可能となっていた。

 トヨタは00号車に2014年スーパーフォーミュラ王者の中嶋一貴を乗せたが、一方ホンダ開発車の05号車はインディカー・シリーズで活躍する佐藤琢磨が乗り込んだ。この琢磨搭乗の理由について、ホンダの佐伯昌浩HR-414E開発責任者はこう語った。

「裏で他のテストもあって、そこにどのドライバーを連れていくのかというのがなかなか決まらず、スケジュールが空いていた琢磨選手が『日本にいるから乗れる』と。去年から一度乗ってもらおうと思っていたのに乗れなかったので」と佐伯責任者。

 これは琢磨にとっても「スケジュールも合っていたので『ぜひ!』と参加させてもらいました」と願ってもないテストだった様子。琢磨は2012年~13年とスーパーフォーミュラにスポット参戦していたが(12年はFN)、13年参戦時もSF14シャシーについて記者会見で尋ねられ「すごく乗りたい」と語っていた待望のドライブだったのだ。

●開発の主眼はターボのドライバビリティか
 琢磨が乗り込んだホンダの05号車は、2日間のテストで「基本的には今年のスペックとはほとんど変わっていません。制御系のテストと今年やってきたことの再確認をしています。外から変えることができる部品は少しは変わっていますけど(佐伯責任者)」というエンジンを載せ走行した。

 一方、一貴がドライブしたトヨタの00号車は、「2015年に向けたエンジンの評価(永井洋治プロジェクトリーダー)」というテストの内容。主に改良を目指していたのは「ターボのドライバビリティというのはひとつの大きな課題なので、それをどれだけNAに近づけることができるか。それも今回のメニューに入っています。ドライバビリティと性能は常についてまわるものなんです。特にこのサーキットでは重要ですね」という。

 永井リーダーの言葉にもあるように、トヨタ、ホンダの両社に共通していたと推測されるのは、ターボエンジンならではのドライバビリティの改良。2014年からスーパーフォーミュラではスーパーGTと共通の2リッター直4直噴ターボエンジンが採用されているが、アンチラグやマップ等、さまざまな部分で両メーカーとも切磋琢磨を続けている様子だ。

「このエンジンはずっとやっていけば、ひとケタ%以上の伸びしろはあると思っています。燃料流量を決めた中で性能を出すのは去年から始まった新しいトライなのでいろんなアプローチがあると思います。まだまだ伸びると思いますし、いろんなアイデアがあると思います」と永井リーダー。

●燃料流量リストリクターは85? 90?
 このエンジンの最大の特徴と言える燃料流量リストリクターに関して言えば、今回15年からの岡山での開催も見据え、両車が85kg/h、90kg/hという異なる燃料流量がトライされた。2014年は通常、スーパーフォーミュラでは100kg/hの燃料流量だったが、オートポリス、スポーツランドSUGOでは安全性の観点から90kg/hの流量で争われた背景がある。

 一貴、琢磨のふたりのコメント、そして永井リーダー、佐伯責任者のコメントから推するに、85kg/hではややアンダーパワーだった様子。またそれほど安全性のメリットがないようで、岡山では90kg/hに落ち着くことになりそう。佐伯責任者はこう語る。

「90から下げても安全なポイントがあまりないんです。85まで下げると、今の状態だとパワーが落ちすぎるし、ドライバーとしても面白くないところがある。(金石)年弘が一度もてぎで乗っているので、年弘にも聞いたら6速に入ってからが面白くないと。90で乗ると、やはりこのクルマに合っているねと言っていました」

 また、琢磨も「慣れてきたらちょっとアンダーパワーかな」と85kg/hの状態を評した。

「せめて90くらいは欲しい。特に小さなコーナーで、全員が立ち上がりでベタ踏みじゃチャンスもないじゃないですか。レースをかき混ぜる要素としてはやっぱりパワーが大きい方がいい」

●SF14を絶賛の琢磨。ターボ開発の経験が活きる
 そんな中、ホンダの05号車をドライブした琢磨は、スーパーフォーミュラSF14をドライブしてどんな感想を抱いたのだろうか。開口一番、琢磨から出てきたコメントは「すごく楽しかった(笑)」だった。

「去年、一昨年に乗ったスウィフト(SF13)とはまったく別物で、スペックから見るに車重も軽いし、見た目も最近のトレンドだし、いいだろうな……というのは分かっていたんです。(山本)尚貴とか伊沢(拓也)とか、いろんなドライバーから『全然動きはいいですよ』と聞いていたので楽しみにしていました」と琢磨。

「最初は慣熟から始めたんですが、動きが本当に軽やかでF1と同じみたい。クルマもクセがなくてすごく分かりやすかったですね。初日の午前は流量リストリクターを低めで走って、午後は90。新しいクルマに乗って、エンジニアと一緒に速くなっていくのを味わっていくのはホント楽しい。セッティングもこのクルマはすごく分かりやすい。F3からステップアップした子がすんなり乗れるんじゃないかな?」とSF14を絶賛した。

 とは言え本来であれば、開発車は通常参戦したドライバーが乗り、2014年との違いをコメントするのが本筋。ただ琢磨には他のドライバーにはできない、琢磨なりの経験があるのも面白い。それはインディカーでのターボエンジンの経験だ。

「このエンジンが14年からどれだけ良くなったかは、やはりレギュラーでないと評価できない。ただ、このエンジンが『いいか悪いか』そのものを評価するのはできるんですよね。ある意味インディカーでシングルターボもツインターボも両方やっているからどちらも分かるし、インディカーで感じていることとこっちで感じることはだいぶ違います」と琢磨。

 また佐伯責任者も、琢磨に対して非常に高い評価を語った。

「さすがですよね。コメントが的確でセッティングがどんどん進んでいくし、これまでやってきたことを車体系のセッティングも含めて何種類か振っていったんですけど、今年やってきたことが間違いないことも確認することができました」

「ドライバビリティの面ではアメリカでもターボ車に乗っているので、向こうではこうだよ、こっちもこうすればもっと良くなるよ……というところを教えてくれたので、かなり得るものがありましたね」

●ルーキーテストは高評価多数。上がるSFのステータス
 今回の岡山テストでは、当然琢磨もそうだが、スーパーフォーミュラSF14で「レースをしてみたい」というドライバーが多く見られた。琢磨は今のところ2015年にSFでレースをする予定はないが、「ちゃんとした環境を揃えてレースをやったらすごいだろうね」と笑顔で語ってくれた。

 また、このテストでは可夢偉やマルデンボロ、GP2王者のファビオ・ライマーをはじめ、高い評価を得るドライバーが多くみられた。彼らが来季のスーパーフォーミュラで戦うシーンを見られればファンにとっても嬉しいところ。当然、各チームのドライバー選定はチーム次第ではあるのだが、両陣営の責任者はどう捉えているのだろうか。

「今日見ている限りでは、(ベルトラン)バゲットはホンダのテストカーに一度乗ってもらったことがあるので、その時の印象ではかなりいいドライバーだな、と感じています。ライマーも含めて、ふたりとも安定しているなと。今回乗ったメンバーは、来季のラインナップに絡んでくると思いますね」というのはホンダの佐伯責任者。

 一方、トヨタの永井リーダーは「可夢偉選手とマルデンボロ選手のふたりは楽しいですね。スーパーフォーミュラがそういうドライバーに乗ってもらえるカテゴリーに成長しつつあるのは嬉しいです。昔のF3000のようになって、またここからF1ドライバーが出てくるようなカテゴリーになると、シートの価値も上がりますから」と語った。

「そうなりつつあることが嬉しいし、そういうドライバーが走っているのを見るとワクワクしますよね。シートについては私が決めることではないですけど、いちファンとして、すごく楽しみです」