2014年12月16日 11:11 弁護士ドットコム
岐阜県・美濃加茂市で放牧されていたヤギを盗んだとして12月上旬、ベトナム国籍の男性3人が岐阜県警に逮捕された。被疑者の男性のうち2人が「盗んだヤギは食べた」と供述したと報じられ、話題を呼んだ。
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盗まれたヤギは、岐阜大学が研究用に飼っていた2匹で、「ヤギの除草隊」として、人気を集めていた。親子連れが草を食べさせるなど、地元の人たちに親しまれていたという。
今回は、ただ単にヤギを「盗んだ」だけでなく「食べた」ということでニュースになっているが、法律的はどうなのか。ヤギを殺して食べたら、「窃盗罪」のほかに別の犯罪も成立するのだろうか。刑事事件にくわしい星野学弁護士に聞いた。
法律上、動物はモノとして扱われる。したがって、他人の動物を勝手に食べてしまうことは、「器物損壊罪」になる可能性がある。今回はどうなのか。
「ヤギを殺して食べた場合、器物損壊罪にはなりません」
このように星野弁護士は述べる。なぜだろうか。
「盗んだ犯人自身が盗んだ物を壊したり、売ったりすることは、窃盗罪に『含まれている』と考えられるからです。
つまり、窃盗罪は、盗んだものを処分するケースを当然予定して、罪の重さなどが決められているというわけです。これを法律用語で、『不可罰的事後行為』といいます」
不可罰的事後行為とは難しい言葉だが、要するに、窃盗という犯罪の「事後」におこなった犯罪的な「行為」でも、あらためて「罰せれられない」ものがあるということだ。
「これに対して、もし財布を盗んだ後に、中に入っていたクレジットカードを勝手に使って買い物をした場合は、窃盗罪だけでなく、新たに詐欺罪なども成立します。
盗んだクレジットカードで買い物をすることは、カード会社やお店をだます行為で、新たな権利侵害が発生しているからです」
結局、盗んだ動物を食べても、罪の重さは変わらないということだろうか?
「別の犯罪が成立するわけではありませんが、ヤギを食べたことが罪の重さに影響する可能性はあります。罪の重さについては、犯罪の動機・方法・結果や社会的影響など、さまざまな事情が考慮されるからです」
どういう部分が影響しうるのだろうか?
「今回のように、ヤギを盗んだだけでなく、それを殺して食べてしまえば、被害者の手元にヤギを戻してあげることはできません。
ヤギを育てていた被害者の悲しみは大きいでしょうし、人気者のヤギが殺されたということで、飼主以外の人々への影響も大きいでしょうから、お金で弁償すれば済むものでもありません。
単に盗んで転売したケースより、重く処罰されてもやむを得ないと思います」
星野弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
星野 学(ほしの・まなぶ)弁護士
茨城県弁護士会所属。交通事故と刑事弁護を専門的に取り扱う。弁護士登録直後から1年間に50件以上の刑事弁護活動を行い、事務所全体で今まで取り扱った刑事事件はすでに1000件を超えている。行政機関の各種委員も歴任。
事務所名:つくば総合法律事務所
事務所URL:http://www.tsukuba-law.com