その話しぶりは23歳とは思えない落ち着きぶり。今季はGP3に参戦し、1勝を挙げたマルデンボロ 小林可夢偉の国内走行で湧いた、12月10日~11日の全日本選手権スーパーフォーミュラエンジンメーカーテスト/ルーキーテスト。岡山国際サーキットで開催されたこのシーズンオフテストで、総合トップタイムをマークした可夢偉と同じくらい強烈なインパクトを残したのが、ルーキーでLENOVO TEAM IMPULから参加したヤン・マルデンボロだった。
マルデンボロは、ゲーム『グランツーリスモ』とニッサンがコラボしたドライバー育成プログラム、『ニッサンGTアカデミー』出身のドライバー。父親はイギリスでプロとしてプレーしたサッカー選手だが、マルデンボロ自身はGTアカデミー加入以前はインドアカート程度のキャリアでモータースポーツ界に入った異色のキャリアの持ち主だ。
初日、総合トップの可夢偉(1分11秒769)に続く2番手タイムをマークしたマルデンボロ(1分12秒401)。それまでの自己ベストの1分13秒801から、最後のアタックできっちり1.4秒タイムアップさせるなど、初めてのタイヤ、マシン、サーキットとは思えないアタックをみせた。しかし、このセッションは最後は赤旗で終了しており、他のドライバーが最後のアタックを終えておらず、可夢偉とのコンマ6秒差の2位は、この時点では純粋には評価できなかった。
しかし、翌日の雨の走行で、その実力が本物だったことを証明した。走りはじめ、多くのドライバーが雨でタイヤが冷えてしまいグリップが得られず1分45~47秒台で走る中、マルデンボロは1分36~39秒のラップタイムで周回を重ねる。ときに縁石を越えてコースアウトしそうになるマシンを修正、路面が乾いていく度にタイムを伸ばし、そのままこのセッションで終始トップをキープしたのだ。
「すごく楽しめた2日間だった。ドライもウエットも、いろいろなシチュエーションで走ることができたからね。ウエットでも全然怖いと思わなかったし、タイヤがすごく良くてマシンがコントローラブルで、最初からずっとプッシュして行けた。今回、僕にとってはすべてが勉強だった。これまで乗ったことがないクルマ、初めてのサーキットで走ったわけだからね」と走行後のマルデンボロ。
今回のテストはLENOVO TEAM IMPULのマシンを駆ってマークしたタイムだったが、間近で見ていた星野一義監督も驚きを隠せない。
「走ったことないサーキットであれだけ走るはすごいよ。驚いた。雨の中でみんなタイヤが温まらないで苦労している中、ひとりだけとんでもないタイムで走っていた。ガンガンいってたでしょ。ハンパない。何年かにひとりの速いドライバー。俺がもうマネージャーとして、どっかに乗る時に20億とか30億で乗るときに5割もらえるように契約しておいた(笑)。すごいドライバーになることは間違いない」
そんなマルデンボロだが、今回のテスト、そしてスーパーフォーミュラの印象を聞いてみた。まずは今回のテスト参加の目的は?
「今回はハイパワーでダウンフォースが大きくて、速いシングルシーターのクルマで、もっと経験を積むことが目的だった。海外でも他のシングルシーターのテストをしたけど、日本ではさらに経験が積めるからね。スーパーフォーミュラはスポーツカーのトップで活躍しているドライバーとか、F1からきたドライバーが参加しているから、すごくコンペティティブなシリーズだと知っていた」
SF14、タイヤ、エンジンの印象は?
「クルマは素晴らしかった。いくつかのコーナーではコーナリングスピードがF1より速いし、首や筋肉のトレーニングにもなる。ものすごく運転していてタフなクルマだった。それにタイヤも素晴らしかったね。何周も何周もプッシュし続けることができるし、その中でクルマのことをもっと感じ取れるようになる。ステアリングやブレーキもすごく良かったね。これは僕が今まで乗った中でも一番速いクルマだったけど、特に慣れなければならなかったのはダウンフォース。肉体的な負担が大きいこのクルマを運転するためには、もっと身体を鍛えなくちゃって思ったよ」
今回のテストで、難しかった部分は?
「初日の午前中のセッションではタイヤを温めるのが難しかった。朝はタイヤのグリップがどれぐらいあるのかを確かめなくちゃならなかった。だから、朝はプッシュし始めるまでに少し時間がかかった。4周目からようやくプッシュできよ。ただ、カーボンブレーキも同様に温めなければならないから、簡単ではなかったよ。ブレーキの温度が適正まで上がったと思っても、まだフロントタイヤが温まっていないとロックしてしまう。何回かそういうのがあったし、タイヤとブレーキ、両方を上手く温めるのは難しかった」
来年、スーパーフォーミュラに参戦する可能性は?
「まだ来年に関してはどうなるか分からないけど、もしチャンスがあるならもちろんスーパーフォーミュラに参戦したいよ! だって、本当に乗っていて速くて楽しいクルマだからね。でも、それは僕だけで決められる問題じゃない。僕の夢はもちろん、世界のトップカテゴリーでもあるF1だけど、ニッサンのLMP1にももちろん乗りたい。だから、本当に今は分からないんだ。だけど、日本はとても気に入ったよ。日本に来たのはこれで2回目。とても清潔な国だし、東京はすぐに好きになったよ」
闘将星野一義も認めた逸材の来季はいかに!? ヨーロッパでは欧州日産の期待の若手であり、F1レッドブルのドライバー育成プログラムにも加えられている。どんなキャリアを歩むにしても、今後の将来が楽しみなひとりと言えるだろう。