2014年12月13日 14:51 弁護士ドットコム
「ワークライフバランス」を気にする人は超一流になれないーー人気ブロガーのイケダハヤトさんが11月の終わりに公開したブログ記事のタイトルだ。仕事と私生活のバランスをとろうという「ワークライフバランス」の考え方に異を唱えるかのような内容で、議論を呼んだ。
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イケダさんは「超一流(世界レベルで見ても、上位の能力を持った人材)になるのは、ほとんどの場合、寝食を忘れてそのことに圧倒的な時間を割いている人である」としたうえで、超一流になるためには、「『ワークライフバランス』という考えを、少なくとも10年は捨てる必要がある」と記している。
イケダさんの意見に対して、ネットでは「超一流の人ってセンスがあるから他の人よりも短い労働時間でさくっと結果だす」と反発する声がある一方で、「その通り。昔のように、ワークライフバランス気にせず何かに打ち込みたい」「どの業界でも超一流はクソワーカホリックなんだよね」と賛同する声も少なくない。
では、「超一流」を目指すサラリーマンが自主的に残業時間を増やし、長時間働き続けた場合、その時間の分だけ賃金を払ってもらえるのだろうか。労働問題にくわしい土井浩之弁護士に聞いた。
「賃金の支払いがあるかどうかは、『自主的な仕事』がどういうものなのかによります。一般的に、いわゆる『ワークライフバランス論』でいう『ワーク』とは、使用者の明示または默示の指揮命令下の労働のことを言うようです」
このように土井弁護士は切り出した。自主的にやった仕事は、労働とは見なされないのだろうか?
「たとえば、はっきりと残業を命じられていなくても、ノルマがある等の理由で残業をしなくてはならないのであれば、使用者の指揮命令下にあると評価される可能性があります。
また、残業を命じられておらず、残業の必要性もなく、使用者の要求以上の仕事をするために残業している場合でも、労働時間にあたる可能性があります。それは、作業に業務性があり、会社内で残業をしている場合、使用者の指揮命令下にあると評価されうるからです。
こうした場合は、たとえそれが自主的だったとしても、その時間は労働時間になります。使用者は残業割増賃金を支払わなくてはならず、不払いには罰則があります」
土井弁護士はこのように述べる。自分の判断で残業しているからといって、会社が残業代を支払わなくてよいというわけではないようだ。
逆に、自主的に仕事をしているのに、残業代を払ってもらえないケースとは、どんなものだろうか?
「イケダハヤトさんは、『土日も勉強会に参加したり、異業種の尊敬できるプログラマーに会ってみたり、海外の本を読みあさったり』といった活動を『ワーク』と捉えているようです。しかし、一般的なワークライフバランス論でいうと、それは『ライフ』の領域の話です」
ということは、たとえ休日のほとんどを仕事に関連することに費やしていたとしても、本人が好きでやっていることなら「ワークライフバランス」がとれている、といえる可能性はあるわけだ。
「そもそもワークライフバランス論は、労働者が長時間労働を余儀なくされた結果、子育てや介護に支障が出た、過労死した、精神疾患になった、という現実をふまえた言葉です。
イメージとしては、睡眠不足の状態で、ノルマや納期に追われ、上司の叱責におびえながら残業をしているような状況です。そんな状態で長時間働いても、その人のスキルアップにはつながらないでしょう。
ワークライフバランスは、そうした悲劇を解消するために、労働者だけでなく使用者を含めた社会全体を啓発しようと用いられている言葉だと思います」
土井弁護士はこのように指摘していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
土井 浩之(どい・ひろゆき)弁護士
過労死弁護団に所属し、過労死等労災事件に注力。現在は、さらに自死問題や、離婚に伴う子どもの権利の問題にも、裁判所の内外で取り組む。東北学院大学法科大学院非常勤講師(労働法特論ほか)。
事務所名:土井法律事務所
事務所URL:http://heartland.geocities.jp/doi709/