旅行代理店大手のJTBで、12月14日投開票の衆院選で公明党に協力するよう要請するメールが社内に流れていたことが分かった。「週刊ポスト」などによると、要請はJTB取締役旅行事業本部長の名前で、11月27日付けの電子メールで送られた。
メールの中身は、首都圏に住む社員には「公明党を支援する署名集め」を、東京12区(北区と足立区の一部)に住む社員には同区出馬の「太田昭宏国交相の支援者名簿を作成する署名集め」を要請するものだったという。
禁止されている「事前運動」に当たる可能性
要請の経緯は、同社の大口顧客である公明党支持母体の創価学会から協力を求められ、それに応じた形のようだ。JTB広報はキャリコネニュースの取材に対し、メールは「創価学会担当の営業数人」にのみ送られたと回答。
「(担当者が署名集めに応じるかどうかは)あくまでも任意。投票を要請するものでもありませんので、法務上問題はありません」
と話している。しかし取引関係を背景として、大企業の取締役が社員にメールを送るのは、本当に法律上問題ないのだろうか。
元検察官で企業のコンプライアンス事情に詳しい落合洋司弁護士は、「この問題は、大別して2つの観点から見ることができます」とした上で、次のように語る。
「1つは、公職選挙法に抵触する可能性です。公職選挙法上、公示・告示前の選挙運動は『事前運動』として禁止され、法定外文書図画の頒布も禁止されています。電子メールも、そこに含まれると解されています。
あからさまに投票を要請するものでなくても、今回のケースのように公示直前(11月27日)に『協力』を呼びかければ『投票依頼』『選挙運動』として公職選挙法違反と認定される可能性はあります。企業におけるコンプライアンスとして何も問題がないとは言いにくいものを感じます」
「企業と政治の関係」の問題が顕在化
もう1つの観点が、「公共性の高い企業が特定政党を応援することの是非」だ。
「同社は極めて多数の利用者を抱えていて、その中には官公庁や公的な団体など様々な立場の組織、人々が含まれています。そうした企業が、組織の活動として特定の政党を応援することには疑問があります。
企業の社会的責任が言われるようになって久しいものがありますが、私企業であっても公共性の高いサービスを極めて多数の人々に提供していれば、特定の思想や信条、宗教や特定の政党、政治団体からは一定の距離を置き中立性を持って運営されるべきです。公共性の高い企業が、特定の人々や勢力に肩入れすれば、強い不信感を持たれたり、サービスのあり方自体に疑問を持たれたりするなど様々な反感を招きかねません。企業の社会的責任として、そのような状態を作り出して良いのかという問題意識は必要でしょう」
JTB社員への「協力要請」は週刊誌だけでなく、朝日新聞や毎日新聞なども報じ始めている。落合弁護士は「この問題が各方面で批判的に取り上げられているのも、おそらく多くの人が、特に2番目の観点で疑問を感じているからではないかと思います」と指摘し、
「今回のケースは、繰り返し議論されてきた、企業と政治の関係やあり方といった問題が顕在化した側面があると思います。公共性が高いサービスを提供する一方で、そうした問題が十分議論されてきていない企業にとっては、考えるきっかけ、材料としてうまく活用されなければならないのではないかと考えています」
と問題提起していた。
JTBは12月10日、サイトに「特定団体の選挙協力に関する報道について」という文書[PDF]を同日付で掲載。「一連の報道につきましては、お客様、関係者の皆様にご迷惑とご心配をお掛けしており誠に申し訳ございません」と謝罪したうえで、
「当社グループといたしましては、組織的に特定の政党・団体を支援することはございません。今後は、特定の政党・団体を支援していると見られる様な行為については厳に慎み、一切行わないことといたします」
と表明している。
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