2014年12月10日 17:11 弁護士ドットコム
安倍政権は消費税率10%への引き上げを2017年に先送りすることを決めたが、次に問題になってくるのが、生活必需品などの税率を低くする「軽減税率」の導入の是非だ。
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軽減税率について、与党は衆院選の公約として「17年度からの導入を目指して、対象品目、区分整理、安定財源などについて早急に具体的な検討を進める」と明記した。野党では、民主党が複数税率の導入や還付措置を盛り込んでいる。
だが、軽減税率に対しては「対象品目の線引きが難しい」「事業者の負担が大きくなる」などの批判も少なくない。はたして、軽減税率は必要なのか、税の専門家である税理士74人に聞いた。
アンケートの結果、62人が「不要」と回答し、84%の多数を占めた。「必要」と回答したのは7人(9%)にとどまった(「どちらともいえない」が5人)。
「軽減税率は不要」と答えた税理士は、次のようなコメントを寄せている。
「軽減税率は弱者救済のためにあるのかもしれませんが、結局『強者』にも適用されて、所得が再分配されないので無意味です」(村越立樹税理士)
「よく指摘されているように『線引き』の問題があります。新聞業界のように『自分の業界は軽減しろ』的なものが次から次に出てきたらどうするのでしょうか。極端な話、『税理士の報酬や会計士の監査報酬は生活に必要だから軽減しろ』と言って『あなたの業界は軽減出来ない』と言われても納得いかないでしょう。軽減税率は現行でも非課税の土地のように、『物理的に消費税を課す事が不合理なもの』に限るべきです」(冨田建税理士・不動産鑑定士)
「実務をやっている身としては、軽減税率は法人の事務負担も増加するため反対です。導入する場合は、計算方法や納付方法を根本から変えないと、課税漏れが発生すると思います」(藤浪伸治税理士)
「弱者救済の『弱者』とは誰を指すのでしょうか。少なくとも軽減税率適用商品を扱う事業者にとっては、事務負担が増えるだけだと思います。むしろ弱者イジメではないでしょうか。チェックする国税職員の事務負担も増えると思います。徴税コストの増加につながります。軽減税率導入を単なる票集めに利用してないで欲しいです」(酒井健太郎税理士)
「消費税10%の段階で導入するのは早いと考えます。フランスなどでは国税不服審判所で3日に1度『これは食料品か否か』的な裁判が行われていると聞きます。軽減税率を導入して複雑な制度にするよりも、一律に10%の税率で負担を求めるものの、この税率を維持する、という政府の姿勢があれば、10%でもみんなが納得するのではないかと思います」(佐原三枝子税理士)
「実務上、問題点がたくさんあります。第一に法律上、軽減税率の品目を定義しなければならなくなります。これにより軽減税率品目に入る業界と入らない業界で経済活動での不利益が生じる可能性があります。
諸外国のファーストフード店では、持ち帰りが軽減税率で、店内飲食は標準税率だそうで、同じ食品でも、食事の仕方で税負担が変わるそうです。もし諸外国の方式が採用された場合、家で食事をする人が増えるため、外食産業への経済的ダメージが生じることが予想されます。
第二にレシート領収書の記載内容が複雑になることがあります。現在の帳簿方式では帳簿を記載する際、会計伝票の処理量が増加する等で実務上の負担が増加します」(瀧尻将都税理士)
一方、「軽減税率は必要」とする税理士は、次のようにコメントしている。
「景気低下は税率増加の心理的な要因が大きい部分もありますので、財政的に増税するのでしたら、心理面への影響を少なくするためにあった方がいいでしょう」(原俊之税理士)
「低所得者の方にとって増税による負担は、生活を圧迫します。軽減税率は課題も多いですが、今後も増税が考えられることからも、熟考し導入すべきだと思います。」(三宅伸税理士)
「どちらともいえない」派は、以下のように考えている。
「軽減税率、名称が問題です。生活必需品の定義や、利用実績等に基づいた区分けが必要です。複数税率の方がまだましかも知れません」(守屋達也税理士)
「ヨーロッパでは導入されているようですし、納得もできるのですが、その反面、税金計算が複雑になるのも目に見えています。例えば、4月に消費税がアップしたことにより、リースなんかでも5%契約と8%契約が混在していることにより、チェックしずらくなったというのもあります」(八木義晶税理士)
「10%であれば、導入は微妙ですね。諸外国でもどれが軽減なのか判定しにくいものは、訴訟に発展しています」(鈴木康支税理士)
(税理士ドットコムトピックス)