子どもたちに大人気のゲーム「妖怪ウォッチ」と、世界的に利用者が増加しているコミュニケーションアプリ「LINE」。2つのサービスの共通点のひとつが「福岡市」だ。「妖怪ウォッチ」を制作したレベルファイブ社は福岡市に本社を構え、LINEも2013年11月に「LINE Fukuoka」を設立し、500人以上の社員が働いている。
この2社以外にも、福岡には成長が期待できる企業や経営者が多く集まる。企業が集まれば、人も必要だ。そこで福岡市は「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」と題し、東京や大阪から2か月間の「体験移住者」を募集している。「体験移住」とは新しい試みだが、福岡市にはどのような「野望」があるのか? 福岡市の企業誘致課・山下龍二郎氏に聞いてみた。
→(2/4頁)福岡市はオフィスが安く、人材豊富で住みやすい
福岡市はオフィスが安く、人材豊富で住みやすい
――なぜいま、福岡市に企業が集まっているのでしょうか?
山下:多くの大学・専門学校等から毎年輩出される豊富な理工系人材を背景に、民間企業が集積・成長し、福岡市を引っ張ってくださったという側面があります。
市では1980年代からIT関連産業の振興に力を入れてきましたが、これが奏功し、大手エレクトロニクス企業の研究・開発施設をはじめとして、多くのシステムインテグレーター企業が集積をしてきたんです。
そういった教育機関やIT関連産業の集積という素地があり、その後のWebシステム企業やデジタルコンテンツ企業の誕生、成長につながってきたのだと思います。そこから、今で言うレベルファイブ社をはじめ、成功する企業が出てきて、「福岡っていいんじゃない」と言ってもらいやすくなりました。
――最近は、クリエイティブな企業が増えているような気がします。
山下:福岡とクリエイティブ産業の親和性が高い理由は、3つあります。1つめは、福岡は都市でありながら東京よりも地価が安いこと。ITを使ったクリエイティブ産業は、工場のような大規模な設備は必要なく、スモールオフィスからスタートできますよね。ネットインフラさえ整っていれば、東京よりも低廉なコストでオフィスを構えられます。
2つめは、人材が豊富なこと。福岡市は人口に占める15~29歳の若者率が高く(政令指定都市14都市中1位)、大学生の割合も高い(同2位)。多くの理系大学生も輩出していて、優秀な学生が多いことは企業に評価いただいています。
3つめの「住みやすさ」も、働く人には大事です。「食事がおいしい」「通勤時間が東京より短い」「海と山にすぐ行ける」「人や街が開放的で親しみが持てる」といった点は、首都圏から転勤したビジネスパーソンから良く聞かれる評価です。クリエイティブ産業で働く方からは、「オンオフを切り換えやすい」という声も聞きます。マーケットを世界に求める企業には、「アジアとの近接性」も評価いただくポイントのひとつですね。
→(3/4頁)2か月間のトライアルワークを経て「福岡移住」
2か月間のトライアルワークを経て「福岡移住」
――「クリエイティブキャンプ」は盛況だったようですね。
山下:9月のキックオフイベント(東京)には約70人、10月の説明会には約80人の方に参加いただきました。男性が7割程度で、20代後半から30代前半といった年代がボリュームゾーンですね。
参加者に話を聞くと、6割程度が「九州にゆかりがある」という方でした。出身、学生時代、転勤で、といった形ですね。「奥様が九州出身」という方は非常にモチベーションが高いように思いました。たぶん移住に関するハードルが低いのでしょう(笑)。「福岡は住みやすい」ということを何らかの形で経験した方が、「仕事さえあれば」という動機で参加されているケースが多いように思います。
――どのようなプロセスで「移住」に至るのでしょうか。
山下:クリエイティブキャンプに登録すると、提携している専門のエージェントが面談し、希望業界や企業についてヒアリングします。合いそうな企業があれば打診を行い、Skypeで面接を行います。希望者は現地で職場見学などもできます。
ここで条件が折り合えば、2か月のトライアルワーク期間に入り、福岡での移住生活を体験していただきます。お互いをしっかり理解し、合意のうえで正式に就職するというプロセスになっています。11月現在で6名の方がトライアルワークに進むことが決まっていますよ。
――企業が求める人材像のようなものはあるのでしょうか?
山下:ニーズが高い職種は、エンジニアやプログラマー、デザイナーですね。ただし求める能力レベルは多様で、スキルの高い即戦力がほしいという会社もあれば、人柄やモチベーションを重視する会社もあります。新卒や第二新卒が欲しいという会社もありますよ。
そもそもクリエイティブキャンプのようなUターンやIターンのプロジェクトを始めた理由は、企業が福岡に進出する際に「働く人を確保できるの?」という疑問に行き着くからです。景気の上昇もあり、企業の求人意向は非常に強くなっている。そこに良い人材が入れば、好循環ができるところまで来ているということですね。
→(4/4頁)「東京だけでいいのか」という企業の意識も高まっている
「東京だけでいいのか」という企業の意識も高まっている
――いまのところ、何人くらいが「正式内定」に至りそうですか。
山下:現在トライアルワークには、15名程度が進むことを予定しています。来年の2~3月までにトライアルワークを終え、その後、正式内定が出るというのが大まかな目標です。もしもトライアルで正式内定に至らなかった場合でも、可能な限り事務局から他の企業を紹介できるように手配を進めています。
――企業進出の見通しはどうですか?
山下:進出企業は増えています。福岡でやっていける環境も整ってきているし、3年前の震災以降「東京だけでいいのか」というリスクヘッジ的な考え方も高まっています。市外から企業を誘致するのと同時に、「日本一・世界一起業しやすい街」を目指して市内でも起業する人も増やしていきたい。ビジネスしやすい環境をつくり、市内外で良いうねりをつくれればと考えています。
福岡市は創業特区として、政府の「国家戦略特区」にも指定されています。起業してチャレンジし、仮に最初はうまくいかなくても再チャレンジできる環境が整えば、良い循環が生まれるのではないでしょうか。
――これから福岡市は、どのような街になっていくのでしょうか?
山下:市政に関する意識調査では、95.2%の市民が「福岡市は住みやすい」と回答しています。ここは確実に守りつつ、日本全国、さらには世界に勝負をかけられる拠点になるというのが、福岡市の目指すところですね。
そこで高島市長や私たちが目標にしているのは、アメリカの「シアトル」という街。福岡市とシアトルは環境が似ているんですね。コンパクトな街で、海も山もあって、人口もそこまで多くなく、ニューヨークやロサンゼルスほど大都会でない。でも、マイクロソフトやアマゾンといった、世界に名だたるグローバル企業が生まれています。
福岡市には、世界にマーケットを求める企業も多くあります。ぜひそれを応援していきたい。福岡市に根ざしながら、世界に勝負をかけられる。そんな環境の整った街にしていきたいですね。
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