トップへ

末期がんの息子の「承諾」を得て殺害した? 母の逮捕容疑「承諾殺人罪」とはなにか

2014年12月08日 11:21  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

末期がんの長男(64)を、本人の同意を得たうえで殺したとして、その母親(85)が11月中旬、「承諾殺人罪」の容疑で大阪府警に逮捕された。


【関連記事:ろくでなし子さん「接見禁止」つき勾留――弁護団は「準抗告」表明】



報道によると、母親は今年8月、長男の同意を得たうえで、その首をひものようなもので締めて、殺した疑いがもたれている。母親は「殺していない」と容疑を否認しているが、2人がそれぞれに書いたと見られる長男殺害を承諾する内容のメモが、自宅で見つかっているという。長男は数か月前に末期がんと診断されて自宅療養中だった。



母子は仲睦まじい親子として、近所でも評判だったようだが・・・。今回の逮捕容疑となった「承諾殺人罪」とは、どんな犯罪なのか。一般の殺人罪とは、違う扱いなのだろうか。中村憲昭弁護士に聞いた。



●刑が普通の殺人よりも軽い


「承諾殺人罪は、本人から承諾を得たうえで、その人を殺した場合の罪です」



こう中村弁護士は説明する。本人が承諾していることが前提なら、結果としては、自殺と近い気もする。



「自殺は、犯罪にはなりません。そのため、個人主義的に考えれば、本人が決めるのならば自分の生命も処分可能じゃないかと思えるのですが、日本の刑法では自殺に関与することが処罰の対象とされています」



どのような理由から、そうなっているのだろうか?



「他人に殺人を依頼する状況は、その人にとって極限状態です。冷静な自己決定ができない場合が多いので、刑罰で他人の助力を得て安易に生命を絶つことのないよう、抑止するという考え方ですね」



承諾を得て殺害した人の罪は、通常の殺人と異なるのだろうか。



「違法性はなくならないとはいえ、殺害に本人の同意があることから、刑罰は軽くなります。



通常の殺人罪だと、法定刑は『死刑または無期もしくは5年以上の懲役刑』です。一方、承諾殺人罪は『6か月以上7年以下の懲役刑』と定められています」



●終活について「議論の深まりを期待」


今回のケースでは、親子を救う方法はなかったのだろうか。



「今回の件は、本来であれば、福祉か医療で対処してあげたい事案です。我が子の命を絶ってあげなければならなかった母の気持ちを思うと、胸が痛みます。



法律上、明示はされていませんが、医療機関が関与する場合は、安楽死も認められる場合があります。しかし、たいへん厳しい要件を満たさなければならず、決して一般的には行われていません。



私は、本来、自分の生き方は自分で決めるべきだと考えます。今後、安楽死や尊厳死についても、『終活』の一環として、議論が深まることを期待します」



このように中村弁護士は指摘していた。高齢化社会を迎え、こうした問題はいっそう現実的に、我々に迫ってきている。



(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
中村 憲昭(なかむら・のりあき)弁護士
保険会社の代理人として交通事故案件を手掛ける。裁判員裁判をはじめ刑事事件も多数。そのほか、離婚・相続、労働事件、医療関連訴訟なども積極的に扱う。

事務所名:中村憲昭法律事務所
事務所URL:http://www.nakanorilawoffice.com/