競争が激しい外食業界で、「新しい魚」で差別化を図ろうとする動きがある。2014年12月2日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)は、市場に流通しない魚を握る回転寿司店や、社員を地方の漁場に常駐させて鮮魚を仕入れる居酒屋など、これまでの常識を破って集客を狙う外食産業の裏舞台を追っていた。
都内近郊に12店を構える居酒屋「四十八漁場」は、新鮮な魚を店員が客の目の前に見せ、おいしい食べ方の提案までしてくれる人気店だ。運営するのは東京・港区に本社を置くエー・ピーカンパニー。自社の養鶏場で育てた地鶏を出す居酒屋「塚田農場」はじめ、飲食店を177店舗展開し成長を続けている会社だ。
社員が船に乗り込み「神経締め」
バイヤーの長野泰昌さん(43)は、岩手県陸前高田市の漁場近くの事業所に常駐している。社員でありながら直接漁船に乗り込み、市場を介さず漁師から魚を買い付けている。その日も漁を手伝いながら、漁師とともに「神経締め(生き締め)」の作業を行っていた。
魚のバイヤーが乗組員になる会社は珍しい。長野さんは「会社と漁師が一緒に仕事をしていくのが、うちの面白いところ」と笑顔で語る。
「(東京に帰りたいとは)意外と思わない。つなぎを着て汗水流しながら寒い漁場に出ていくことで、もっと魚が流通するような道筋をつけるのが僕の仕事だと思っている」
手間のかかる神経締めだが、獲ってすぐ船上で行うことで、日持ちしない地魚も東京の店でおいしく食べられるようになる。さらに長野さんは、魚や漁師の写真を撮影してパソコンで編集し、おいしい食べ方の情報などとともに店に送っている。これをもとに各店舗でメニューを打ち出していく。
11月には新店舗オープンに合わせ、寒ブリで評判の高い福井県美浜町の日向漁港でも、バイヤーの倉本光隆さん(32)が漁船に同乗していた。
30年ほど前から魚の買取価格が上がらず悩む日向漁業組合だが、倉本さんは神経締めをしてもらうことを条件に、魚を高値で買い取る約束をしていた。新店舗・調布店は目玉商品に「ウマヅラハギのカルパッチョ」を打ち出し、お客に大好評だった。
スギやニザダイ、ウスバハギなどを「銘魚」に
エー・ピーカンパニーの米山久社長は、今後も各地の漁師との絆を深めていきたい考えを語った。四十八漁場は今後2年で50店舗に増やす予定だという。
「(バイヤーが)出張ベースで行く程度だと、深い関わりになっていかない。各産地で一緒に取り組みをしていかないといけない」
番組では、大阪府豊中市にある「天然漁場直送回転寿司 ぶっちぎり寿司」も紹介した。大手チェーン店に対抗するため、他では見られないスギやニザダイ、フエフキダイ、ウスバハギなどを「銘魚」として安く寿司ネタにして人気を博している。
いずれも聞きなれない魚だが、それもそのはず。実は漁獲量が少ないためにセリにかけられない「未利用魚」だったのだ。
この店に魚を卸しているのが、京都の魚卸「食一」だ。味は良いがまとまった数が獲れなかったり、調理法が面倒だったりして流通しない魚について、代表の田中淳士さん(28)は「漁港に眠る宝」と呼んでいる。
田中さんは、大学時代に漁港と飲食店を直接結ぶビジネスモデルで起業。2008年、学生起業家のコンテスト「京都・学生アントレプナー大賞」で優勝した。従業員は3人、全国100カ所以上の漁港から直接魚を仕入れ、飲食店などに販売している。
新サービスには「発想」と「技術」の両方が必要
ぶっちきり寿司は食一から仕入れた魚を使いだしてから、売り上げが15%アップしたという。運営するナリッシュ・カンパニー社長の佐々木俊明さんはこう語る。
「技術と、真摯に食材に向きあう姿勢がなければ、長いこと親しまれる店は作れない。もっと新しい、他にはないものを探して行かないと、これからは難しい」
珍しい魚だけに、さばき方や調理法は調理人の力量にかかっている。新しい発想はもちろん、それを生かす職人技も必要だ。常識を打ち破りながらも、「お客が喜ぶ食」を提供するための基本はきっちり守った商売なのだなと感じた。(ライター:okei)
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