今年3月にネット上で話題になったリクナビの「エントリー煽り」について、リクルートキャリアの執行役員で新卒事業本部長の中道康彰氏が東洋経済の11月29日号の記事「『リクナビ』の功罪」で釈明をしている。
「結果的に不快な思いをした学生さんたちには申し訳なかったと率直に反省している」
「早い時期に幅広い会社に目を向けてほしかった」
同社は2015年卒向けの就職情報サイト「リクナビ2015年」のトップページで、ユーザーの就活生に対し、
「あなたのエントリー件数53社 内定獲得した先輩のエントリー件数78社」
などと表示。その下に「内定獲得した先輩に追いつく!」というボタンを設置し、企業への一括エントリーページへ誘導した。これが大量エントリーをむやみに煽っているとして、ネット上で批判が殺到することとなった。
中道氏は記事で、エントリーを煽るような「意図はなかった」と説明。なぜ、このような表示をしたかについては「就活を始めたばかりの人たちに目安を示したかった」とする。
エントリー数の目安がわからない就活生が、限られた社数しかエントリーせずに選考を落ち続け、どんどん受ける企業が減っていく事態を防ぐため、
「できるだけ早い時期に、幅広い会社に目を向けてほしい思いがあった。チャンスを逃してほしくなかった」
とする。また同社には、サービス提供の原則に「自主性の尊重」という項目があるが、「今回の件ではそれが最高のレベルではなかった」としている。
その一方で、エントリーを煽る背景には就職情報会社の都合があるという指摘もある。就職アドバイザーの恵比須半蔵氏は、『あらゆる就職情報は操作されている』(扶桑社新書)の中で、就職情報会社が「大学生の就活をサポートする善意の団体」というのは大間違いで、無料の情報はすべて就職情報を脚色・誇張した「採用広告」に過ぎないという。
就職情報サイトだけが「就職への道」ではない
リクナビの企業向けページを見ると、リクナビへの基本掲載料金は120万円。オプションとして「WEBエントリーシステム 90万円」「説明会・面接予約画面A 60万円」なども表示されている。
何百万円もかけて掲載する企業があるのだから、リクナビとしてはクライアントに満足してもらう必要がある。就活生に大量エントリーを推奨するのは、エントリー数が「リクナビ」という商品の価値に直結するからという側面は否めない。
リクナビの企業向けPRサイトでは、顧客企業からの声として「100社規模の我が社に1089人のプレエントリー。驚きました(東京都・化学)」と効果をアピールしており、エントリー数が企業に掲載を促す重要な宣伝要素になっていることは間違いない。
採用広告ビジネス自体は悪いことではないが、就職情報サイトに惑わされた学生が「玉砕」を繰り返して自信を失う片棒を担いでいるとしたら、配慮が必要と言われても仕方ない。企業・学生双方とも疲弊し、儲かるのは就職情報サイトだけとして「武器商人に似ている」と揶揄する声もある。
ただし学生の側にも改善の余地がありそうだ。「就職情報サイトを使った自由競争を通じて入社しなければフェアではない」と勘違いする人もいるが、親や親戚のコネを使ったり、出身校のOBOGに会社を紹介してもらったりすることは悪いことではない。
採用広告を出していない企業のウェブサイトを調べて自分から問い合わせてみるのも、ネット時代だからこそ可能になったことだ。中道氏も記事中で、
「学生さんたちには、自分というものをしっかり持ってもらいたい。私が言うのもおかしいかもしれないが、リクナビには使われないでほしい」
と話している。
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