2014年12月02日 14:21 弁護士ドットコム
さまざまな飲食店が密集する新宿・歌舞伎町。街を歩いていると、客引きに「うちは『塚田農場』の系列店ですよ」と声をかけられた。その言葉を信じて居酒屋に入ったら、実は「全く無関係の店」だったーー。
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これは、東京の大学生O君が11月に体験したエピソードだ。O君は「有名な『塚田農場』の系列だったら安くておいしいだろう」と考えて店に入ったが、料理はお世辞にもおいしいと言えるものではなかった。気になったO君が後日、「塚田農場」に電話で確認したところ、その店は系列店でもなんでもなかったという。
客引きに「だまされた」と感じたO君は、できれば飲食代を返してほしいと思っている。その主張は認められるのだろうか。消費者問題にくわしい福村武雄弁護士に聞いた。
「『塚田農場』とは無関係であるにも関わらず、『塚田農場』の系列店だと告げたことが、もし契約の『重要事項』に該当すれば、法律的には契約の取り消しが可能です」
福村弁護士はこう述べる。どういうことだろうか?
「事業者が消費者契約の締結を『勧誘』する際、『重要事項』について事実と異なることを消費者に告げた場合、消費者は契約を取り消すことができる。そういうルールが、消費者契約法にあります。
ここで『重要事項』かどうかは、ごく簡単に言うと、消費者がその契約を結ぶことを判断するうえで影響を与えるかどうか、という観点から判断します」
O君のケースはどうだろうか?
「この観点からいうと、O君のケースでは、その居酒屋で提供される飲食物そのものの質などについて、虚偽の説明を受けたわけではありません。
さきほど説明した消費者契約法のルールからすると、重要事項とはいえないと、否定されそうです」
では、今回のケースで、O君はあきらめるしかないのだろうか。
「裁判例では、『重要事項』の判断を比較的柔軟にしているケースもあります。
たとえば、『他店で買えば41万円ほどの値が付く』と説明された指輪を、29万円で購入したところ、後日、『小売価格が12万円程度の指輪』と判明したという事例がありました。
2004年4月22日の大阪高裁判決は、一般的な小売価格を『重要事項』と認定して、売った側がそれと異なることを告げたということで、消費者契約法による取り消しを認めました。
つまり、購入動機になった『お得だ』という説明が、不実の告知だったということです」
この裁判例の考え方からすると、O君のケースでは・・・。
「そう考えると、O君が店に入る『動機』となった『塚田農場の系列店である』という説明が、『重要事項』と認定される可能性も、まったくないわけではありません。
ただし、居酒屋で飲食するかどうかの判断に、『塚田農場系列店かどうか』という事実が通常どれぐらいの影響を及ぼすのか、その程度は指輪の一般小売価格と比較してどうなのか、といった問題はあります。
また、実際に訴訟をするとなると、虚偽の事実を告げられたことをどう『立証』するのかという点や、O君が実際に飲食した『利得』をどう評価するのかなど、ほかにもクリアすべき問題があります」
福村弁護士はこのように指摘していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
福村 武雄(ふくむら・たけお)弁護士
平成13年(2001年)弁護士登録、あすか法律事務所所長
関東弁護士連合会・消費者問題対策委員会元副委員長、埼玉弁護士会消費者問題対策委員会元委員長、安愚楽牧場被害対策埼玉弁護団団長
事務所名:あすか法律事務所
事務所URL:http://www.asukalo.com