今季F1のチャンピオン争いは、ルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグの一騎打ちとなった。数字上は圧倒的にハミルトン優勢。しかし新たに「ダブルポイント」制度が導入され、どんな結末になるのか予測できない──そんなF1最終戦アブダビGP、ここではレース中にチームと交わした言葉から、敗者ロズベルグに光をあてる。
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「パワーを失っている!」
24周目、首位ハミルトンを追うロズベルグからの悲痛な叫びが無線で届いた。MGU-Kにトラブルが発生し、エネルギー回生が機能しなくなっていたのだ。カナダGPで起きたのと、ほぼ同じトラブルだった。
エンジニアのトニー・ロスが無線で指示を送る。
「まだERSは機能していない。リヤの制動力はブレーキ本体だけだ」
「低いギヤを使ってくれ。そのほうがターボラグを解消するのに有利だ」
ロズベルグはタイヤを労って第2スティントを長くすることで、次のピットストップでの逆転を狙っていた。前戦ブラジルGPでハミルトンがやろうとしていた戦略だ。しかしERSトラブルで、それどころではなくなってしまった。ピットアウトも手動でクラッチをつないで行わなければならないし、MGU-Hまで問題が波及すればターボのブーストも利かなくなる。
「(スタート時は)手動で発進してくれ。RSモードは使えない。ガレージから出る時と同じようにクラッチをつないでくれ」
「(次のピットストップを最後にして)もうピットストップしないほうが良いだろう。以前このトラブルをモントリオールで抱えた時も、そうだった」
「そうだね、トラクションコントロールが効いているみたいな感じだ」
33周目にピットストップを終えたあともロズベルグのペースは戻らず、ウイリアムズ勢だけでなくレッドブル勢、ジェンソン・バトンと次々に抜かれていく。
「もしルイスが脱落したら(タイトル獲得に)必要な順位に入れそう?」
「いまのところ状況は良くない」
「どうなっているの? どうすれば良い?」
「とにかく全開で行ってくれ。タイヤは問題ない」
パワーユニットの問題を遠隔操作で解決するのは難しそうで、チームも万策尽きていた。
40周目を過ぎると、マシンの状況は悪化の一途を辿る。ロズベルグからは次々と報告が上がり、MGU-Kが利かないことによってリヤブレーキが不安定になっており、何度もブレーキロックとコースオフを繰り返す。
「クルマの電源が落ちたり、スロットルが無茶苦茶になったりしている」
「ブレーキペダルがロングになってきている。でも、ブレーキバランスは同じままなんだよね?」
「ブレーキペダルを返してくれよ、頼むから!」
フォース・インディア勢にも抜かれてポイント圏外まで落ち、絶望的な状況となったロズベルグに、チームはリタイアを勧めた。しかし、ロズベルグは頑として受け入れなかった。ライバルであるハミルトンの順位にかかわらず、このレースの勝利だけを考え、タイトルを賭けて臨んだはずの最終戦を意地でも最後まで走り通したかった。
「ピットインしろ、トラブルが多すぎる」
「最後まで走りたい!」
「ちょっと待ってくれ……わかった、走っていい」
結果は、ハミルトンが優勝して2014年ワールドチャンピオンの座に輝き、ロズベルグは周回遅れの14位でフィニッシュするのがやっとだった。
「まだ、シーズンを振り返るのは難しいよ。いまはまだ今日のことだけで頭がいっぱいだ。僕は最終ラップの最終コーナーまでプッシュして戦い続けたし、そうすることでルイスにプレッシャーをかけ続けた。それがうまくいかなかったことにとてもガッカリしているし、最終的な結果(タイトルを獲れなかったこと)にもガッカリしている。二重の意味で大きく落胆しているんだ」
そんなロズベルグに、チーム首脳のパディ・ロウが、ねぎらいと賞賛の言葉をかけた。
「ニコ、今日はうまくいかなくて申し訳なかった。でも今シーズンの君は常にチャンピオンにふさわしい走りをしていた。来年もう一度トライしよう」
実は、ロズベルグも最後にドーナツターンをやりたいとロスに訴えたが、マシンの状況を鑑みて許されなかった。それは来年タイトルを獲るまで、おあずけだ。
「今年はたくさんのポジティブを手にすることができた。予選の速さがその最たるものだろう。それが来年に向けて良い土台になる。幸いなことに、すぐテストがあるから、また火曜にはドライブできる。もう2015年がスタートするんだ。ハンティングの再開だよ──」
(米家峰起)